横浜バレエフェスティバル 2019

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PICK UP!

海外バレエレポート(イタリア)11
「くるみ割り人形」2018

毎年12月7日はミラノの聖人アンブロージョの祝日。スカラ座は毎年この日に新シーズンが開幕され、大統領を始め、多くの著名人が劇場に足を運び、その夜のオペラ公演は全国にテレビ中継されます。

一方、バレエは16日にシーズン初日を迎えました。今年はスカラ座史上初のバランシン版による「くるみ割り人形」が上演されました。

 

マリーと王子クリスマスの星へと導かれる
@Teatro alla Scala

バランシンと言えば、ヨーロッパのバレエ文化をアメリカに普及した人物。1929年、ディアギレフの死に伴うバレエ・リュスの解散後、アメリカの裕福な青年リンカーン・カースティンと出会いがきっかけで1933年に渡米。バランシンが確立した「プロットレス・バレエ」は、劇場もない、音楽家もいない、舞台装置にも衣装にもかけるお金がないという、まだバレエの下地がなかった初期のアメリカの条件も相まって生まれたもの。そんなバレエ環境も少しずつ変化し、バランシンに「くるみ割り人形」の依頼が来たのが1954年のことでした。

1904年、著名な作曲家の父のもとサンクトペテルブルグに生まれ、11歳で帝室舞踏学校に入学、16歳で国立アカデミー・オペラ・バレエ劇場(現在のマリンスキー劇場)のバレエ団に入ったという経歴を持つ彼にとって、「くるみ割り人形」は小さな時から非常に身近な作品でした。彼が幼少期に体験したクリスマスも、実際にこの作品の設定のような世界だったのではないでしょうか?

シュタールバウム博士の家でのクリスマスイブのパーティー
@Teatro alla Scala

今回、この上なく幻想的な舞台美術を作り上げたイタリア人のマルゲリータ・パッリは、インタビューの中で、今回意識したのは「バランシン版は《メイド・イン・アメリカ》の「くるみ割り人形」であること」だと述べています。当時のアメリカ人が見て、自分の育った土地ヨーロッパでのクリスマスを思い出してノスタルジーを感じるような、そんな「アメリカ人が思い描くヨーロッパのクリスマス」をイメージしたそうです。

 

兵隊たちとネズミの一団との闘い
@Teatro alla Scala

そんなスカラ初のバランシン版「くるみ割り人形」は、本当にため息が出るほど素晴らしいものでした。特に雪の精のシーンの舞台美術は特筆すべき出来栄え。しーんとした深い森の中で踊る雪の精たち。まるで絵本の中に入り込んだかのような錯覚を覚えました。また、スカラで見慣れたヌレエフ版に比べて、付属アカデミーの子供たちが大活躍! マリーも王子も最後まで子供のままですし、おもちゃの兵隊も子供たちです。小さな彼らが、グロテスクで大きなネズミと果敢に戦うシーンはとてもリアリティーがありました! この版は、水準の高い付属アカデミーを所有していないと上演は難しいでしょう。結局、プリマが踊ったのは、金平糖の精(ニコレッタ・マンニ)と騎士(ティモフェイ・アンドリヤシェンコ )、そして花のワルツのシーンの露のしずくの精(マルティーナ・アルドゥイーノ)の3人だけでした。最後のシーンは、アカデミーの子たちとバレエ団の団員とが一堂に会しデフィレの様相!年末に相応しいフィナーレとなりました。一番最後は、マリーと王子がトナカイが引くソリに乗って空を飛んでいきました……

中国のお茶
@Teatro alla Scala

 

アラビアのコーヒー
@Teatro alla Scala

 

8人の小さな道化をつれたマザー・ジンジャー
@Teatro alla Scala

 

金平糖の精と騎士
@Teatro alla Scala

 

ファイナル
@Teatro alla Scala

私にとっても初めてのバランシン版でしたが、本当に楽しいひと時を満喫することができました。みなさんも今回の素晴らしい舞台を写真で堪能して下さいね!

 

記事:川西麻理

 

川西麻理の「バレエ音楽 豆知識」

チャイコフスキーの「くるみ割り人形」は、バレエ音楽としてお披露目される前に、中から8曲セレクトされ、演奏会用組曲として先に初演されました。そのため、今でもこの組曲の形でもよくコンサートで演奏されます。チャイコフスキーの3大バレエとして、「白鳥の湖」(1877年)、「眠れる森の美女」(1890年)と共に有名な本作(1892年)ですが、作品としては最も可愛らしいこの作品が、音楽的には実は最も複雑なオーケストレーションになっており、その弦楽器の革新的な使い方は、不協和音を多用したストラヴィンスキーの音楽を先取りしているかのよう。チャイコフスキー3大バレエの中で、音楽だけ聴いても十分素晴らしいのは断然「くるみ割り人形」。ぜひクリスマスシーズンに合わせてじっくり聞いてみてはいかがでしょうか?

 

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