海外バレエレポート(イタリア)8
ヌレエフ生誕80周年・逝去25年記念ガラ公演「Serata Nureyev」
今回は5月26日に足を運んだ、ヌレエフ生誕80周年、そして逝去から25年を記念して行われたガラ公演「Serata Nureyev」、すなわち「ヌレエフの夕べ」についてレポートしたいと思います。
ガラ公演はスカラでは珍しく、個人的には初めて足を運びました。
まずプログラムをご紹介。前半は、スカラ座のゲストプリンシパルで世界的プリマドンナであるスヴェトラーナ・ザハーロワ(オーロラ姫)とパリ・オペラ座の25歳のエトワール、ジェルマン・ルーヴェ(デジーレ王子)による「眠れる森の美女」の3幕。後半は、ロイヤルのプリンシパルのマリアネラ・ヌ二ェスとワディム・ムンタギロフによる「ドン・キホーテ」の3幕のグラン・パ・ド・ドゥと、ロベルト・ボッレによるバランシンの「アポロ」。今回はこれらの主役たちに焦点を当ててお伝えします。
【まず「眠れる森の美女」について】
青い鳥とフロリナ王女や、長靴をはいた猫のシーンなどをスカラ座のソリストやエトワールが踊った後に、オーロラ姫扮するザハーロワが登場。
ここで即座に感じたのは、イタリア人ダンサー(もしくはスカラによくゲスト出演するロイヤルのダンサー)とは全く異なる分子が混入したかのような印象。彼女は普通では考えられないようなアン・ドゥオールの完璧さ、足のしなりといった、非の打ちどころのない素晴らしい肉体を持っており、その超ド級さが際立っていたというのはもちろんですが、ここの所イタリア人ダンサーに慣れていた私の目には、それとは別次元で、ロシアのバレエスタイルとイタリアのそれとの違いが初めて明確に感じられました。両国のバレエスタイルの違いについては承知していたつもりでしたが、実際ここまで異なるのかと驚きました。また、一般的に日本のダンサーの求めるものは、体の細さも含め、繊細さを追求するロシア的美のスタイルなのかな? という印象も受けました。一方、ルーヴェは全く違和感がなく、スカラ座のプリンシパルだと言われても全く疑問を抱きません。バレエに関して誇り高きパリ人が聞いたら怒るかもしれませんが。
【次に「ドン・キホーテ」について】
ヌネェスはスカラ座でもおなじみのダンサーですが、彼女の特別な魅力には本当にため息が出ます。とにかく愛らしい! 彼女が微笑むと、見ている方も自然と一緒に微笑んでしまう。確固たる素晴らしいテクニックはもとより、何よりも彼女の人間的な魅力が観客全員を幸せにしてしまうのです。
私は個人的に素の彼女に出会ったことがありますが、全く飾らない本当に可愛らしい女性でした。ヌネェスを見ていると、バレリーナとして人間的な魅力がどれほど大事か、踊りにダンサーの人間性がどれほど如実に表れるかを改めて思い知らされます。この夜で彼女が一番の大喝采を浴びました。相手役のムンタギロフはヌネェツの放った輝きに比べると多少見劣りしてしまいましたが、もちろん世界一流のダンサーであることは間違いありません。
【最後に「アポロ」について】
ボッレのイタリアでの人気については再三お伝えしてきましたが、今回も例によって、幕が開いてボッレの姿が現れた瞬間、ボッレ新鋭隊の「キャー!!!」という黄色い声が響き渡りました。しかし、ボッレの素晴らしさは、いわばそのポビュリスト的な人気に笑顔で答えながらも、プロのダンサーとしての職務を淡々とこなすところにあります。嫌な顔一つせず、むしろ喜んで、テレビにも出、ポップスの歌手とのコラボもし、このジャンルを世に広めるために多大な貢献をする一方で、大変真面目で、劇場に戻ってきても完璧なパフォーマンスを見せる。その謙虚な姿勢には本当に頭が下がります。今回のアポロ役は、ギリシャ彫刻のような体を持つ彼にぴったりの役。ただ個人的にはボッレはクラシックの演目に向いているとは思いますが、それでも、彼のダンスの非の打ちどころのなさに関しては全く異論はありません。ただ、ボッレ親衛隊の皆様には、劇場という場にあった声援をして欲しいなとは毎回思いますが(苦笑)。ただ、彼女たちのような今まではバレエに興味のなかった層が劇場に足を運ぶという現象は、今後のこの分野の発展につながることは言うまでもありません。
いずれにせよ、この上なく煌びやかな一夜でした。ガラは全幕物に比べると味気ないですが、たまにはこういう演目もありですね!
記事:川西麻理
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投稿日: 2018 年 6 月 25 日
カテゴリ: 海外のバレエレポート