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PICK UP!

海外バレエレポート(イタリア)18
ミラノ・スカラ座バレエ団『ボレロ』

さて、今シーズン最後の公演、コンテンポラリーの傑作3部作、 “シンフォニー IN C” (バランシン)、“プティ・モール” (キリヤン)、“ボレロ” (ベジャール)“という非常に豪華な演目に足を運びました。


“プティ・モール”と“ボレロ”については既に別の回で作品と音楽の解説をしていますので、詳しくはそちらをご覧くださいませ。

海外バレエレポート(イタリア)5
ミラノ・スカラ座バレエ団
『Mahler 10』、イリ・キリアン『Petite Mort』、モーリス・ベジャール『Boléro』
https://balletnavi.jp/article/pickup/20180411-4065/


 

 

Petite Mort 2 @Teatro alla Scala

 

1つ目の作品はバランシン振付の“シンフォニー IN C”。元々パリオペラ座のために作られたため、バランシンはフランスの作曲家の音楽が良いだろうと思い、オペラ “カルメン” で有名なジョルジュ・ビゼーが若干17歳の時に作曲した、30分と短くほぼ無名に近かったこの音楽を選び、2週間で振り付けました。タイトルは“Le Palais de Cristal (水晶宮)” 。それぞれの楽章に宝石の名前が付けられ、大人数がきらびやかな衣装で踊る、豪華な舞台となっています。その後 NYCB の前身であるバレエ・ソサエティで “シンフォニー IN C”と改名され上演され、《バレエは目で見る音楽である》というバランシンの新しいポリシーに基づくプロットレス・バレエという、新しい形を得たのです。衣装も、女性は全員白のクラシックチュチュ、男性は黒と極めてシンプルになりました。これだけで一気に NY の匂いがしますね! このバレエは何しろ難しいことを考えず、動きを見て楽しめばよいのである意味、クラシック音楽には興味があるけどあるけど、バレエはちょっと……という方にお勧め。

Symphony in C 1 @Teatro alla Scala

Symphony in C 3 @Teatro alla Scala

2つ目のキリヤン振付の “プティ・モール”。見る度に、一番美しい形で男女の肉体的な交わりの悦びを表現した芸術作品だという思いを強くします。品のないセックスの取り上げられ方が横行する現代において、モーツァルトの涙が出るほど美しい音楽にのせたこの作品を、若いティーンエイジャーにこそ見て欲しいといつも思います。暴力的だったり、アンタッチャブルないやらしいものなんかではなく、これこそ人間が体験できる最も崇高で恍惚な一瞬であることを感じられたらどれほど素晴らしいでしょう。日本にもそういう土壌ができるといいなと思います。

Petite Mort 3 @Teatro alla Scala

 

Petite Mort 1 @Teatro alla Scala

 

3 番目はベジャールのボレロ。こちらも作品そのものや音楽については以前に取り上げた回をご参照頂きたいのですが、今回大注目なのは何と言っても主役を踊ったスカラ座のプリマバレリーナ、マルティーナ・アルドゥイーノです! 今回のボレロはロベルト・ボッレ、ジョアッキーノ・スタラーチェと彼女のトリプルキャストでしたが、わたしは小柄で女性らしいアルドゥイーノがボレロを踊ることが全く想像つかず、ぜひ見てみたいと彼女の日を選びました。これまで私が彼女に持っていたイメージは、黒鳥のような妖艶さや小悪魔的な雰囲気だったのですが、幕が上がって下りるまで、このダンサーがあのアルドゥイーノだとはどうしても信じられず、カーテンコールでようやく笑顔になった瞬間に、“本当に彼女だったんだ!”と気付いたほど、長いストレートの黒髪の後ろに一つで結んで、小さな円形の舞台で踊るアルドゥイーノは全く別人でした。クラシックは演じる役がありますが、コンテンポラリーはそれがないので、ダンサーの内面が如実に現れます。たくさんのボレロを見てきましたが、彼女のボレロは今まで見てきたものとは一線を画すものでした。あくまでもエレガントに女性らしく、それでいて内面にここまで熱いものを持っていて、それを焼き尽くすまで踊る精神力。さらに彼女の踊りが、自分をより良く見せようとしたりせず、等身大の今の自分に誠実で謙虚であることに、大変驚くと共に非常に感動しました。今回このように素晴らしいボレロを踊り、彼女の完全に新しい一面をミラネーゼに見せらたことは、今後のキャリア (特にコンテンポラリーのレパートリーにおいて) に大きく影響するのではないでしょうか? 劇場中がスタンディングオベーションになったことは言うまでもありません。これからの彼女が本当に楽しみです。

 

Bolero 2 @Teatro alla Scala

 

とても素晴らしい公演で今シーズンを締めくくり、来シーズンのオープニングは“シルヴィア”。どんどん進化していくスカラ座バレエ。目が離せません!

★☆★川西麻理のバレエ音楽豆知識★☆★
“プティ・モール”と“ボレロ”については以前に触れましたので、今回は“シンフォニー IN C“の音楽について触れたいと思います。前述の通り、オペラ “カルメン” で有名なフランスの作曲家、ジョルジュ・ビゼーが17歳で作曲した4楽章形式の交響曲で、パリ・オペラ座初演版 “Le Palais de Cristal(水晶宮)” では1楽章ルビー(赤)、2楽章サファイア(青)、3楽章エメラルド(緑)、4楽章クリスタル(白)とそれぞれの楽章に宝石の名前が付けられていました。少しでもバランシン作品をご存知の方なら、すぐに彼の別の作品 “ジュエルズ” を思い起こすはず。実際、“ジュエルズ” は“Le Palais de Cristal ” のNYCB 版と言えます。“シンフォニーIN C”は、既述の通り、NYCB の前身のバレエ・ソサエティで上演されました。ということは、まだまだアメリカにバレエという文化が全く浸透していなかった頃。今から見ればミニマムでクールないかにもNYらしい白黒の衣装ですが、資金が無かった事も大きい原因の一つでしょう。なぜならバランシンはその30年後に彼は華やかな“ジュエルズ”を作っているのですから。少し音楽から話がそれましたが、今でこそビゼーと言えば “カルメン”しか思い浮かばないという人がほとんどだと思いますが、36歳という若さでこの世を去っているため、当然といえば当然。実際は当時、同時代の大作曲家からこぞって称賛を受けた天才。オペラ “アルルの女” “真珠採り” の中には本当に涙が出るほど美しいアリアがあります。これを機会に彼の作品を探索してみてはいかがでしょうか?

記事:川西麻理

 

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