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PICK UP!

海外のバレエレポート(イタリア)16
ミラノ・スカラ座「ジゼル」

長い夏のバカンス後、最初に足を運んだのは、まだ休暇ボケしている頭と体を一瞬にして目覚めさせるにふさわしい演目、なんとスヴェトラーナ・ザハーロワの「ジゼル」! ジゼル役はザハーロワの他に、スカラ座のプリンシパルのニコレッタ・マンニと、ソリストのヴィットーリア・ヴァレーリオの3人がローテーションで踊りましたが、やはりザハーロワも40歳となった今、彼女のジゼルを見逃すわけにはいかない! と、勇み足で劇場に向かいました。

1幕ジゼルの友達 @Teatro alla Scala

1幕ジゼル アルブレヒト @Teatro alla Scala

私が見たのは9月24日の公演。指揮はバレエ界の巨匠でスカラ座ではおなじみのデヴィッド・コールマン。アルブレヒト役は、アメリカン・バレエ・シアターからのゲスト、デヴィッド・ホールバーグ。かなり豪華な組み合わせにもかかわらず、劇場はいつもより空席が目立ったので、おかしいなと思いつつオケピットを覗くと、団員が一様に若い! これはもしやと確認すると、やはりスカラ座アカデミーの学生オーケストラでした。一方、本物のスカラ座オーケストラはというと、ドゥオーモ広場で野外コンサートをしているというではありませんか! これでは、観光客はじめ、真のバレエ好きでない限りそちらに流れるわけです。ザハーロワの公演ではいつも、ジャーナリストはプレス専用のパルコで肩を寄せ合いぎゅうぎゅうになって観劇することになるのですが、この日は初めて平土間席のかなり前の席で実にゆったりと見ることができました。

それは良かったのですが、アカデミーの学生オケはリハーサルが足りなかったのでしょうか。ジゼルの音楽では楽譜には書いてなくとも慣例となっているタイミングと違う部分が非常に多くあり、これではダンサーたちはかなり踊りにくかったのではと思います。ためるところをさっと行ってしまったり、通常よりかなり速いテンポだったり、全体がばらけていてテンポがつかみづらかったり、聞いている方がひやっとする部分も多々ありました。しかし、そこはさすがに百戦錬磨のダンサーたち。とっさに対応し、事なきを得ました。バレエを見る時に、オーケストラに注目する人はほとんどいないと思いますが、当然のことながら大事な要素なんだなあと、この夜改めて思いました。

2幕ザハーロワ @Teatro alla Scala

さて、音楽のことはさておき、その他については大変素晴らしい公演でした。本当に細い体のザハーロワは、結婚を誓い合った彼が別の女性と婚約をしていたことを知りショックで死んでしまうという、繊細なジゼルにぴったり。実際は40歳の彼女ですが、本当に10代の少女そのものに見えました。それから、何度見てもこの世のものとは思えない彼女の恵まれた体型! アンドゥオールの完璧さ、甲の形、手足の長さと、身体的に恐ろしいほど完璧なバレリーナですよね。まさにそんな人間離れした肉体を持つ彼女は、死んでウィリになった2幕のジゼルそのもの。やはりキトリなどの元気な役より、ジゼル、白鳥といった浮世離れした役が彼女の真骨頂です。そして相手役のホールバーグもそつのないパーフェクトな踊りで、実に見事なカップルでした。特に2幕のパ・ド・ドゥでは、涙が出そうなほど心に迫るものがありました。シンプルでゆっくりであるからこそ非常に難度の高い動きの中で、2人の気持ちが手に取るように理解できました。

2幕パドドゥ1 @Teatro alla Scala

 

2幕パドドゥ2 @Teatro alla Scala

またさらに特筆したいのは、2幕のコールドの美しさ。一糸乱れぬ動きで、劇場中をウィリの森の静けさへといざないました。アドルフ・アランの感動的な音楽も相まって、ジゼルの2幕がより一層大好きになりました。

2幕コールド1 @Teatro alla Scala

 

2幕コールド2 @Teatro alla Scala

その他、第1幕の村人のカップルのパ・ド・ドゥは、スカラ座プリンシパルのマルティーナ・アルドゥイーノとソリストの二コラ・デル・フェ―ロの2人が、2幕のウィリの女王ミルタはマリア・チェレステ・ローザが踊りましたが、どれも素晴らしかったです。特に、デル・フェ―ロの安定したダイナミックな踊りには大きな拍手が送られました。

1幕村人のパドドゥ

1幕村人のパドドゥ@Teatro alla Scala

 

1幕村人Martina Arduino

1幕村人Martina Arduino @Teatro alla Scala

1幕村人Nicocla del Fero

1幕村人Nicola del Freo @Teatro alla Scala

2幕ウィリの女王ミルタ

2幕ウィリの女王ミルタ @Teatro alla Scala

 

という訳で、バカンス明けから素晴らしい再スタートを切ったスカラ座のバレエ。次回はジョン・クランコが生んだ傑作「オネーギン」。スカラ座ではここの所、毎年といっていい程上演していますね。ロベルト・ボッレとロイヤルのプリンシパルでスカラ座でもおなじみのマリアネラ・ヌニェスがキャスティングされています。お楽しみに!

 

★☆★川西麻理のバレエ音楽豆知識★☆★

「ジゼル」の音楽の作曲者はフランス人のアドルフ・アダン。現在でも演奏される彼の音楽は、この「ジゼル」以外ありません。ただ、この音楽の劇音楽としての出来は感嘆に値します。有名なジゼルが狂乱する場面だけをとっても、はっと振り向く、気が狂ってけらけらと笑い出す、お母さんに抱き着く、彼と二人で踊ったことを思い出して踊る、剣を振り回す、息絶えて倒れる……。音楽全てが振付とぴったり合っているという以上に、アダンの音楽が劇的な効果を最大限に引き出しています。個人的には、古いディズニーの映画における動きと音楽の相関関係を思い起こしますが、みなさんはいかがでしょうか? 第2幕のジゼルとアルブレヒトのパ・ド・ドゥは、単声のシンプルなメロディーで泣かせるイタリア・ベルカントオペラのベッリーニのアリアさながら。現在では無名に近いアダンですが、残ったたった1つの作品は、今でも慎ましいながらも美しく輝き続けています。

 

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