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海外バレエレポート(イタリア)12
「Winterreise(冬の旅)」

2月1日、コンテンポラリーバレエの著名な振付家アンジュラン・プレルジョカージュの新作「Winterreise(冬の旅)」のスカラ座公演に足を運びました。

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

まず、ここで現在のヨーロッパの劇場におけるコンテンポラリーの位置づけについて少しお話したいと思います。日本でバレエと言えば、イコール「クラシック」というイメージが未だ強く、さらに、クラシックを踊るダンサーと、コンテンポラリーを踊るダンサーは別、という住み分けがあるように見受けられます。しかし、少なくともヨーロッパの主要な劇場では、1シーズンのプログラムの中でのクラシックとコンテンポラリーの割合はほぼ半々と言えるほどであり、劇場付きバレエ団で踊るダンサーたちは、クラシックとコンテンポラリーを交互に両方踊るのが日常の仕事。当然「私はクラシック(コンテンポラリー)だけしか踊れません」なんて通用しません。つまりは、コンテンポラリーを専門とするバレエ団に入れば別ですが、クラシック専門のバレエ団というのは存在しないということを、世界でクラシックバレエの仕事をしたい日本の若い方には是非知っておいて欲しいと思います。さらに言えば、ヨーロッパで踊りたい日本人ダンサーにとって、アジア人の容姿が最も生かせるのはコンテンポラリーであり、仕事の可能性を広げる意味でも、日本人ダンサーにこのジャンルは欠かせません。日本でクラシックを勉強する若い方たちには、そのことを良く理解した上で、コンテンポラリーにもっと興味を持ち、親しんでもらいたいと思います。

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

実際、スカラ座のダンサーの多くは、コンテンポラリーを非常に好み、踊ることを楽しみにしています。彼らのコンテンポラリーへの愛は、間違いなく観客よりもずっと大きなもので、今回の「冬の旅」も、現・元ダンサーからは大絶賛。一方、他の国よりも保守的な傾向の強いミラノの観客、中でも私が行った日はアッボナーティ(年間定期券を持つ人=大半はお年を召した超富裕層)のための公演だったので彼らの反応は、分かったような分からないような、といった雰囲気のものでしたが、私は個人的にコンテンポラリーが大好きなので、気に入ったところも気に入らないところも含めて、とても楽しめました。

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

プレルジョカージュはフランス人の振付家。彼は24人のダンサーから成る自身のバレエ団“バレエ・プレルジョカージュ”以外のためにはあまり振付をせず、例外的に仕事をするのが、パリ・オペラ座、NYシティバレエ、そしてスカラ座の3つだとのこと。スカラ座のためには何度も振り付けているため、ダンサーたちとも旧知の仲。

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

「冬の旅」は言うまでもなく、シューベルトの連作歌曲集の傑作で、24曲の歌曲から構成されています。ドイツ人の詩人ヴィルヘルム・ミュラーの詩の内容は、失恋し絶望した若者が町を捨て旅に出、唯一の慰めである死を求め、寒い冬の中をさすらい続けるという、非常に重いもの。今回はバリトンとピアノが生でオケピットの中で演奏されました。

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

このシューベルトの傑作にプレルジョカージュが振り付けたこの舞台では、何もかもが意図的に曖昧にされています。“旅人は男性だが、それはシューベルト自身かもしれないし、彼の女性的な側面、いや実は女性なのかもしれない。バレエの振付が、男性から女性へのジェンダーの移行を可能にする。それだけではない。曖昧さを突き詰めれば、旅人が探し求める死は仮定に過ぎないのかもしれないし、あるいは「小さな死(オーガズム)」つまり究極の快楽の追求と同じことなのかもしれない”(リブレットより抜粋)

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

“この作品通して、観客が個々のイマジネーションの中で旅することを望む”と振付家自身が述べている通り、この作品は100人いれば100通りの解釈ができるといったもの。私個人は、この暗く静かで美しい音楽と、体の流れるようなラインをただただ“体感する”という形でこのバレエ作品を楽しみました。ライトも衣装も非常に効果的で、私のイマジネーションへの没頭を後押ししてくれる素晴らしいものでした。

@Brescia e Amisano Teatro alla Scala

こういう作品に関しては、こうだ! と評論できるものではなく、見たものそれぞれがそれぞれの感受性や自らの過去の経験を通して体験するもの。従って今回は、「冬の旅」を聴きながら、舞台の写真見て頂き、どんな作品だったかを想像して楽しんで頂ければと思います。

 

記事:川西麻理

 

川西麻理の「バレエ音楽 豆知識」

今回は純粋なクラシック音楽としての傑作、シューベルトの連作歌曲集「冬の旅」。「白鳥の歌」「美しき水車小屋の娘」と共に、シューベルトの3大連作歌曲として非常に有名です。まず、連作歌曲集とは、文学的にも音楽的にも何らかの関連性を持った一連の歌曲から構成された歌曲集であり、全体を通して上演されることを想定し作曲されたもの。シューベルトはこのジャンルではシューマンと並び最高峰の作曲家です(シューマンでは「詩人の恋」「リーダークライス」「女と愛の生涯」が著名)。この「冬の旅」は通常バリトンによって歌われることが多く、その録音を聞くなら是非、名盤中の名盤、フィッシャー・ディースカウのものを聞いて頂きたい! ドイツ歌曲といえばフィッシャー・ディースカウです!残念ながらもうお亡くなりになりましたが、彼は日本でも非常に有名で、録音も映像も多く残っています。ドイツ語が理解できれば一番ですが、無理であればドイツ語の対訳を片手に、その詩の世界をシューベルトが音楽でどう表現しているか、春が来る前のまだ寒い今のうちに、ゆっくりと(できれば静かな冬の夜、山深いログハウスの暖炉の前の椅子に座って……いることをイメージしつつ! )この傑作を是非ご堪能下さい!

 

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