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海外バレエレポート(イタリア)9
ミラノ・スカラ座「ドン・キホーテ」

大分前の話になりますが、7月16日、夏のヴァカンス前の最後の演目「ドン・キホーテ」を見にスカラ座に足を運びました。

今回の「ドン・キホーテ」も、スカラ座ではもはや定番になっているヌレエフ版。オリジナルの「ドン・キホーテ」とは何もかもが大きく異なるので、好みが分かれるところです。ただ客観的に見て、ヌレエフ版は、音楽・振付・話の運び、全ての要素において“ごちゃごちゃ感”が否めないのは確かではないでしょうか。

とりあえずここではヌレエフ版の良し悪しはさておき、私が見た日の舞台について触れていきたいと思います。

@ph Brescia e Amisano Teatro alla Scala

まず今回の「ドン・キホーテ」の公演のキトリ役は、現在のスカラ座の主要な若手エトワール、ニコレッタ・マンニ(27歳)、マルティーナ・アルドゥイーノ(22歳)、ヴィルナ・トッピ(26歳)の3人が交代で務めましたが、私が見た日はヴィルナ・トッピ。私は他の2人が主役を踊った舞台は見たことがありましたが、彼女のものは初めてでした。前回のガラ公演“ヌレエフの夕べ”の「アポロ」で、この3人がミューズを踊った際、彼女たちの個性の違いが非常に明確になりました。悪女的な要素を多分に持つマンニ、ミステリアスな魅力を持つアルドゥイーノに比べて、唯一彼女一人が純真無垢なキャラクター。きれいな明るい金髪も相まって、本当に天使のような可愛らしさを放っていました。そんなトッピが活発で強気なキトリをどう踊るのか、非常に楽しみでした。

@ph Brescia e Amisano Teatro alla Scala

結果はある意味想像通り。彼女はやはり元来、オーロラ姫を踊るべき生まれたバレリーナ。脚や甲が本当にきれいで、特にアチチュードやアラベスクで静止した時のラインの美しさにはため息が出ます。気の強いキトリに何とか近づこうとする努力の跡は見られましたが、これではどう見てもどこかの王女様の「なんちゃってキトリ」。やはりこれでは優雅過ぎます。踊っているときは振付に助けられるのでまだしも、走るときの後ろ姿やちょっとした目線など、しばしばキトリの勝気な部分が消えて、王女様に戻ってしまっていました。特にバジルやお父さんとのやり取りにおけるコミカルなマイムはまだまだ未完成。キトリ役、特に1幕は役作りの研究の必要が相当あると思います。一方、ドルシネア姫の部分はパーフェクト!これなら、ドン・キホーテでなくとも、誰もが一目で魅了されてしまうでしょう!3幕の結婚式の場面は、これもキトリの結婚式というより、前述の通り、オーロラ姫の結婚式のようでありました。いずれにせよ、テクニックは完璧、恵まれた体を持つ彼女、これからは表現力をどんどん磨いて、私たちをますます楽しませて欲しいですね。彼女なら、いずれ素晴らしいキトリが演じられるという予感がしています。

@ph Brescia e Amisano Teatro alla Scala

一方、バジルはスカラではおなじみのクラウディオ・コヴィエッロ。彼は本当に毎回非の打ちどころのない技術と芸術性を見せてくれますが、今回も同様、まさに完璧なバジルだったと思います。コミカルなものも、シリアスなものも常にパーフェクトにこなす彼。安心して心から楽しめます。

@ph Brescia e Amisano Teatro alla Scala

最後に、1つ大変奇妙に思ったのは、キトリのお父さん役です。小さくてスリム、若々しくて、明らかにキトリと同年代に見えました。そのことにより、この作品ならではのキトリ、バジルを始め、ドン・キホーテ、サンチョ・パンサ、ガマーシュなどとの面白いやり取りが非常に分かりづらくなってしまい、そこはこの演目の見どころの1つでもあるので残念でした。それ以外の役に関しては、どの役もぴったりのキャストで、見どころ満載でした。

@ph Brescia e Amisano Teatro alla Scala

@ph Brescia e Amisano Teatro alla Scala

@ph Brescia e Amisano Teatro alla Scala

いずれにせよ、「ドン・キホーテ」ほど見ていて純粋に楽しいバレエも珍しい。シリアスなものも大好きですが、この暑い季節、パーンと晴れ渡る夏空にはこういった作品がぴったりですね!

@ph Brescia e Amisano Teatro alla Scala

 

記事:川西麻理

 

 

川西麻理の「バレエ音楽 豆知識」

ヌレエフ版の音楽は、ミンクスによるオリジナルの音楽を、イギリス人の作曲家兼指揮者のジョン・ランチベリーが編曲したものです。彼は「ドン・キホーテ」以外にも、「ラ・フィユ・マル・ガルデ」を始めとした、多くのバレエ作品の編曲を手掛けています。ただ彼のバレエ音楽の編曲には賛否両論あり、特に本作品の評判はいまひとつ。個人的にはかなり違和感を感じます。特に同じミンクス作曲ではありながらも全く似ても似つかない雰囲気の「バヤデール」の音楽を挿入するという暴挙には驚きです!一体なぜ?!そのことに気付くほどのバレエ好きにとってみれば、「バヤデール」のその場面が「ドン・キホーテ」を見ている最中に突然浮かんでしまい、その選曲には首をかしげるばかりです。このように、古典バレエ作品は、1作品につき数多くの版があり、それぞれがかなり異なります。その違いを比べ、お気に入りを見つけるのも楽しいですよ!

 

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