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PICK UP!

蛭崎あゆみ(バレエピアニスト)インタビュー
~日本のバレエ界が盛り上がるようにお手伝いをしたい~/「横浜バレエフェスティバル2017」出演

新国立劇場バレエ団専属ピアニストであり、バレエ界の第一線でご活躍中の蛭崎あゆみさんが、6月9日、10日に行われる「横浜バレエフェスティバル2017」で「ジュンヌバレエYOKOHAMA」の新作(振付:遠藤康行)の演奏を務めます。蛭崎さんにバレエピアニストとしての歩みやお仕事について、そして「横浜バレエフェスティバル2017」出演への抱負について伺いました。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)

――バレエピアニストを志した理由は?
3歳くらいからピアノを母(蛭崎裕子)に習いました。バレエも4歳くらいから習っていましたが、レッスンは生演奏ではなかったので、バレエピアニストという仕事があるとは知りませんでした。その存在を知ったのは、学生時代、あるバレエ学校が創設され募集していたからです。結局その学校は諸事情により開校に至らなかったのですが、この募集があったお陰でバレエピアニストの存在を知り、大学(武蔵野音楽大学ピアノ科)を卒業してからやってみようと思いました。

――さまざまなスタジオで弾き始め、新国立劇場でもお仕事されるようになります。
最初に弾いたのが小林紀子バレエ・シアターのクラスで、その後紹介いただいたりして仕事の場が広がりました。バレエピアニストは皆必ずしもバレエをやっていたわけではありませんが、バレエの知識が全くないよりは良かったと思います。バレエピアニストの仕事は2種類あって、クラスを弾く仕事とリハーサルを弾く仕事に分かれます。クラス、リハーサルとそれぞれに違った専門性が要求されるので、どちらかを専門に弾くピアニストも多いです。私はいま新国立劇場で両方弾いていますが、カンパニーによってこの仕事の分け方はさまざまです。

――若い頃にパリで研鑽を積まれました。
2004年の年明けにパリに行ったのは、本場で力を試したいと思ったからです。働けるビザを取ったのですが、なんのコネもなくいきなり来たアジア人を使ってくれるわけもなく大変でした。「もう無理かな」と思っていたとき、あるスタジオに行くと、中からピアノの音色が聞えてきました。パリ・オペラ座のリハーサルピアニストだったピエトロ・ガリが引退して街の稽古場で弾いていたんです。もの凄く感動して、もう少し頑張ろうと奮起しました。そのスタジオにバレエのクラスを受けに行くことから始め、ピエトロさんともお話しするようになって、やがて彼が風邪で休んだりすると代わりに弾くようになりました。1か所で弾き始めると、パリでバレエに携わっている人たちの間に噂が広がって、どこでも使ってもらえるようになりました。あるとき突然パリ・オペラ座から電話がかかってきて「バレエピアニストのコンクールがあるから出るように」と連絡をもらい、出場したところ入賞することが出来ました。その後はパリ・オペラ座関係のお仕事もいただくようになり、パリでは文化に根付いたバレエを肌で感じながら楽しく仕事をする事ができました。

――その後、文化庁新進芸術家海外研修制度を利用してウィーン国立歌劇場で研修されます。
バレエピアニストで在外研修生はそれまで前例がなかったので、周りには無理だと言われましたが、審査ではこの仕事の重要性と熱意を認めていただき、受かることができました。ウィーンではピアニスト全員がクラスもリハーサルも両方弾きます。クラスだけ弾いていると自分が弾けるものしか弾かなくなってしまうし、リハーサルだけ弾いているとクラスで即興する際などに咄嗟の対応力がなくなります。そのような意味で両方弾けるウィーンは私には最適なカンパニーでした。同僚や監督にも私の仕事は気に入ってもらえたようで、研修が終わる頃には「ぜひ就職してほしい」と言われました。でも海外で経験がある一ピアニストとして、何ができるかを考えながら日本でやりたいと思い、帰国して新国立劇場のオファーを受けました。

――専属ピアニストを務める新国立劇場バレエ団でのお仕事について教えてください。
朝1時間15分のクラスを弾きます。11時45分から17時30分までは作品のリハーサルをしています。最初は主役だけの稽古や何幕の何場だけといった稽古をして、本番が近づくと一幕を全部通して稽古し、最後は全幕を通します。指揮者が入ると話し合い、ピアノ舞台稽古に入ります。リハーサルピアニストの大切な役割とは、ダンサーや指導者に言われっぱなしではいけないこと。たとえばダンサーに「ここ間に合わないからゆっくりして」と言われて、音楽の流れを考えずにただその要求に従っていれば、そのうち音楽は成り立たなくなってしまいます。ちゃんと音楽がきれいに聞こえる形にしながら踊りやすいように折り合いの着くところを探し、指揮者が来るまでに整えておくのが仕事のひとつです。ダンサーや指導者に何か言われたときに「それはできない」と答えることもありますし、逆に「ここをこうしたら音楽的におかしくないから、こうしてみたらどう?」と提案もします。これは長年仕事をしてきてやっと出来るようになって来たことです(笑)。

――バレエピアニストとして活動するうえで大事にされていることは?
ダンサーが踊りやすく弾くのは大前提ですが、自分は音楽家なので、クラスでもリハーサルでも音楽がきれいに聞こえるようにしたいと常に考えています。理想は音楽的に流れていて、なおかつ踊る人を引っ張っていく力のある曲作りをすること。そのためにはバレエの知識、ピアノの技術だけでなく、コミュニケーション能力も必要です。クラスを弾くときもアンテナを張りめぐらし、先生とダンサーと自分との三角形をイメージしています。リハーサルやピアノ舞台稽古になると、指揮者、指導者、ダンサーが常に何を求めているかを分かりながら弾かなければなりません。踊る方も演奏・指揮する方も皆真剣勝負で必死なので、そこをうまくまとめるためにはミュニケーション能力が大事ですね。

――バレエ公演の舞台で伴奏される機会もありますね。
演奏家として弾きますが、ダンサーを感じなければいけないので、だからこそ私が頼まれるのだと思います。例えばコンチェルトをオーケストラピット内で弾くときなど、舞台上のダンサーを見ながら弾けるわけではないのですが、「このピアニストは作品を知っている、バレエを知っている人だ」とダンサーが思ってくれることが、彼らを安心させたり、力になったりするらしいです。振付に合わせて弾かなければいけないので「演奏会だったら、このようには弾かないな」と思うところもあるのですが、スターダンサーズ・バレエ団の「オール・チューダー・プログラム」(2015年)の『小さな即興曲』で弾いたシューマンの「子供の情景」のような純粋ピアノ曲が弾けるのはうれしいですね。普段仕事柄、オーケストラ曲をピアノにアレンジしたりしたものを弾くことがほとんどなので、貴重な機会をいただきました。

――レッスンCDを出されたり、国内外でのバレエ講習会で弾かれたりもされています。
それらは自分の可能性を広げるといいますか、できることを広げようという自分を高めるための活動です。レッスンCDに関しては、私が弾いているスタジオは限られるので、私のピアノで踊りたいといってくれる人のために音楽を届けたい気持ちがあって作っています。

――バレエピアニストを目指す人への講習会も行っていますね。
バレエピアニストには皆個性がありますが基本的なことを教えることはできます。クラスで使えるようにする曲のアレンジの仕方や曲の長さの決め方、踊り出すためのプレパレーションの付け方などです。メトロノームのように精確に刻まなければいけないといっても、音楽が動いてドラマティックになっていなければ良いバレエピアノとは言えないと教えています。ダンサーにとって踊りやすく、弾く方も弾いて楽しい曲を考えるのは楽しいですし、やり甲斐も感じます。

――バレエピアニストのお仕事を通して感じる喜びとは?
自分の弾いた曲でダンサーがもの凄くノッて踊ってくれると弾きやすくなるし、「つながっている感」を感じられ幸せになります。音楽の力ひとつでダンサーの身体を引き上げることができます。とくにプロはクラスで身体を引き上げたあとのリハーサルが仕事なので、ここで体が引き下がったらアウトです。リハーサルピアニストとしてはリハーサルを経て舞台の幕が開き大成功に終わったとき、微力ながら一スタッフとして関わって何かできたことがうれしいですね。

――「横浜バレエフェスティバル2017」で「ジュンヌバレエYOKOHAMA」の新作「レ・ブリヨン Les Brillants」(振付:遠藤康行)でモーツァルトの「きらきら星変奏曲」を演奏されます。
「きらきら星変奏曲」は日本では子ども向けだと思われていますが、フランス民謡を元にモーツァルトが作曲したチャーミングな曲です。モーツァルトを本番で弾くのは畏れ多いですが、若いダンサーたちが踊る作品にとても合っていると思うので、チャーミングさを活かした弾き方をしたいです。純粋ピアノ曲を弾ける機会は貴重で本当にありがたいです。遠藤さんとは初めてご一緒しますが、新国立劇場主催のダンス公演でもお仕事されていらっしゃるし楽しみです。初演の作品でもあるので光栄です。

――これからの展望、抱負をお話ください。
具体的なもの、小さいことでいえば、レッスンCDをプロ向けだけでなく子供向けに作ってみたいと考えています。そのほか今後何がどう出てくるかは分かりません。「横浜バレエフェスティバル」も本当にひょんなことから本番で弾かせていただくことになりましたし。ただ、日本のバレエ界をもっと盛り上げるお手伝いをしたいということが、この仕事を始めてからの変わらない目標です。

 

公 演 情 報

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Aプログラム 6/9(金)19:00~

◆「ラ・バヤデール」よりソロルのヴァリエーション
2014年ローザンヌコンクール優勝の際に踊ったヴァリエーション。
二山の持つ魅力を存分に味わうことのできる1曲です。
二山治雄

◆「眠れる森の美女」
振付:デヴィッド・マッカリスター
プティパ原振付に基づいたオーソドックスな魅力と、豪華でセンスの良い衣装も観客やメディアから支持されたデヴィット版を日本で見ることのできる貴重なチャンスをお見逃しなく!
近藤亜香(オーストラリア・バレエ プリンシパル)
チェンウ・グオ(オーストラリア・バレエ プリンシパル)

◆「アラジン」
振付:デヴィット・ビントレー
新国立バレエ団で世界初演後、バーミンガム・ロイヤルバレエやヒューストン・バレエ団でも上演された、子どもから大人まで楽しめる作品。
飯島望未(チューリッヒ・バレエ グルッペ・ミット・ソロ)
八幡顕光(新国立劇場バレエ団プリンシパル)

◆「ジゼル」
昨年の公演で絶賛の嵐だった倉永・清水の豪華ペアによるロマンティック・バレエの王道「ジゼル」は、バレエファンなら絶対見逃せません。
倉永美沙(ボストン・バレエ団 プリンシパル)
清水健太(ロサンゼルスバレエ団プリンシパル)

◆「ジュリエットとロミオ」よりバルコニーのパ・ド・ドゥ
*日本初演
振付:マッツ・エック
2014年バレエ界のアカデミー賞と言われる「ブノワ賞」を日本人が初めて受賞したことで大きな話題となりました。待望の日本初演!!
湯浅永麻(元ネザーランド・ダンス・シアター)
アントン・ヴァルドヴァウワー(スウェーデン王立バレエ)

◆「Mononoke」
ダンス界で今大きな注目を集めているシディ・ラルビ・シェルカウイが加藤三希央のために振り付けた新作。
振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ
加藤三希央(ロイヤルフランダースバレエ団)

◆「Que Sera」より~ 柳本の場合 ~
*+81新作
前々年、前年と話題と笑いを巻き起こした柳本雅寛の意欲作!
熊谷拓明との化学反応も乞うご期待。
振付:柳本雅寛
柳本雅寛(コンテンポラリーダンサー +81主宰)
熊谷拓明(ダンス劇作家)

◆「スターズ&ストライプス」
20世紀の偉大な振付家ジョージ・バランシンによるアクロバティックなジャンプや回転技が魅力の作品です。
振付:ジョージ・バランシン
竹田仁美(NBAバレエ団プリンシパル)
二山治雄

◆「SOLI-TER」より
かつてパリオペラ座で上演された「SOLI-TER」を、横浜バレエフェスティバルで
オーギュストが踊るためにアレンジした特別な作品です。
振付:ジョゼ・マルティネズ
オーギュスト・パライエ(カンヌ・ロゼラ・ハイタワー・バレエ学校)

◆「レ・ブリヨン Les Brillants」Aプログラムバージョン
*ジュンヌバレエYOKOHAMAのデビュー作。新作世界初演。
10代の若さですでにバレエの道をひたすらに進んでいく大きな覚悟を決めた彼ら。
この作品がプロへの道のりの出発点となることでしょう。
振付:遠藤康行(元フランス国立マルセイユ・バレエ団 ソリスト・ 振付家)
ピアノ:蛭崎あゆみ
オーギュスト・パライエ
川本真寧(2015年オーディション優勝)
縄田花怜(2016年オーディション優勝)
中島耀(2016年オーディション神奈川県民ホール賞)
中村りず(2015年オーディション第3位)
竹内渚夏(2017年オーディション第3位)
丸山萌(2017年オーディション第4位)
亥子千聖(2017年オーディション第5位)
生方隆之介(2017年オーディション第6位)

◆「ラ・バデヤール」幻影の場ソリスト第1ヴァリエーション
オーディションで高く評価された確かな基礎力と、高度な技術力が必要な最後の見せ場が大きな見どころです。
大岩詩依(2017年オーディション準優勝)

◆「ドン・キホーテ」バジル・第3幕
オーディションでは、1ミリたりともぶれない軸の強さを見せつけたピルエット(回転技)で 観客を圧倒しました。まだ中学生とは信じがたいほどの驚異的なテクニックをご覧ください。
松浦祐磨(2017年オーディション優勝)

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Bプログラム 6/10(土)16:00~

◆「バラの精」
バレエ・リュスの代表作ともいえる「バラの精」
二山と竹田が観客を美しい幻の世界へいざなってくれることでしょう。
竹田仁美(NBAバレエ団プリンシパル)
二山治雄

◆「海賊」
公私ともにベストパートナーの2人による安定感抜群のパ・ド・ドゥ、
そして超人的なテクニックは絶対に生の舞台で見るべき!
近藤亜香(オーストラリア・バレエ プリンシパル)
チェンウ・グオ(オーストラリア・バレエ プリンシパル)

◆「ジュリエットとロミオ」よりバルコニーのパ・ド・ドゥ
*日本初演
振付:マッツ・エック
湯浅永麻(元ネザーランド・ダンス・シアター)
アントン・ヴァルドヴァウワー(スウェーデン王立バレエ)

◆「walking with hands」
クラシックとはまた違った世界観による倉永美沙の新たな魅力とその表現を堪能できる作品です。
振付:Paulo Arrais(パウロ・アハイス)
倉永美沙(ボストン・バレエ団 プリンシパル)

◆「ジゼル」
倉永美沙(ボストン・バレエ団プリンシパル)
清水健太(ロサンゼルスバレエ団プリンシパル)

◆「3 in Passacaglia」
2013年、JAPON dance projectによってカンヌで上演された話題作を飯島・八幡・遠藤の魅力的なキャストで再演決定!
振付:遠藤康行
飯島望未(チューリッヒ・バレエ グルッペ・ミット・ソロ)
八幡顕光(新国立劇場バレエ団プリンシパル)
遠藤康行(元フランス国立マルセイユ・バレエ団 ソリスト・ 振付家)

◆「Que Sera」より~ 熊谷の場合 ~
*+81新作
Aプログラムとはまた違った味わいをお楽しみください。
振付:柳本雅寛
柳本雅寛(コンテンポラリーダンサー +81主宰)
熊谷拓明(ダンス劇作家)

◆「Mononoke」
*シディ・ラルビ・シェルカウイ 新作世界初演
振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ
加藤三希央(ロイヤルフランダースバレエ団)

◆「ソワレ・ド・バレエ」より
米沢唯が2015年の横浜バレエフェスティバルで踊り、そのスーパーテクニックに
拍手喝采となった作品を、今年はなんと畑戸が踊ります!
畑戸利江子(2013年モスクワ国際バレエコンクール 銅賞)

◆「START FROM THE END」
*Francesco Curci(フランチェスコ・クルチ) 新作日本初演
芸術監督の遠藤がフランスでその才能に度肝を抜かれた2m級のスーパーダンサー、
オーギュスト・パライエ。その彼が遂に日本初登場!
振付:Francesco Curci(フランチェスコ・クルチ)
オーギュスト・パライエ(カンヌ・ロゼラ・ハイタワー・バレエ学校)

◆「パリの炎」
フレッシュなペアによる競演!
プロ顔負けの高難度技をいとも簡単そうに演じてしまう2人から
一瞬たりとも目が離せません。
大岩詩依(2017年オーディション準優勝)
松浦祐磨(2017年オーディション優勝)

◆「レ・ブリヨン Les Brillants」Bプログラムバージョン
*ジュンヌバレエYOKOHAMAのデビュー作。新作世界初演。
振付:遠藤康行(元フランス国立マルセイユ・バレエ団 ソリスト・ 振付家)
ピアノ:蛭崎あゆみ
オーギュスト・パライエ
川本真寧(2015年オーディション優勝)
縄田花怜(2016年オーディション優勝)
中島耀(2016年オーディション神奈川県民ホール賞)
中村りず(2015年オーディション第3位)
竹内渚夏(2017年オーディション第3位)
丸山萌(2017年オーディション第4位)
亥子千聖(2017年オーディション第5位)
生方隆之介(2017年オーディション第6位)

詳細はこちら⇒ http://yokohamaballetfes.com/