バレエを裏で支える人々Vol.2
リノリウムの役割と重要性:バレエスタジオ施工専門 アテールに聞く
~日々のレッスンをより充実したものにするために~
アテール株式会社 村越幹弘/桐林昇
レッスンやリハーサルで普段何気なく使っているリノリウム。けれど、その役割を知っている人って意外と少ないのでは? リノリウムの重要性を知れば、日々のレッスンに役立ち、技術の向上に繋がることも……。リノリウムの役割とその重要性について、バレエスタジオ専門施工を手がけるアテール代表の村越幹弘さんと桐林昇さんにお聞きしました。
バレエスタジオにおけるリノリウムの役割とは? リノリウムを敷けば足腰への負担が少なくなるのでしょうか?
村越:実をいうとリノリウム自体はクッション性を持っていないので、衝撃を吸収する役割はないんです。一部、クッションが付いた商品もありますが、基本的には、リノリウムを敷いている=足腰に優しい、という訳ではありません。
桐林:いくらいいリノリウムを使っていたとしても、コンクリートの上に直接リノリウムを敷いていたら、身体にいいという訳ではない。そういう意味でいうと、柔らかさを配慮している材質ならば、木の床でも身体にいいということになりますね。
村越:ただバレエの場合床が滑りすぎると転んでしまうし、滑らなすぎると引っかかって回れない。滑りすぎず、滑らなすぎず、という適度な摩擦にするのがバレエスタジオにおけるリノリウムの役割。リノリウムを敷くときは、まず自分たちが踊る上で調度いいものはどれか、ということが選択の基準になってきます。
リノリウムの種類にはどういったものがあるのでしょうか。
村越:大きく分けて国産と輸入品があります。これまで日本のスタジオで使われていたリノリウムは国産のものがほとんどでした。弊社では、イギリスのハーレクイン社製の『カスケード』と『スタジオ』の2種類を取り扱っています。世界の名門カンパニーを調べていると、ハーレクイン社のリノリウムが好んで使われているということを聞き、イギリスの本社に行って直接話をしました。実際に現地で感じたことですが、やはりハーレクイン社の製造に対する姿勢は素晴らしいものがある。ロットごとにきちんとスリップテストを実施しているので、ロットによる滑る・滑らないのばらつきもなく、高いクオリティをキープしているんです。
また、国内産のリノリウムももちろん取り扱いしておりますので、お客様のご予算と、ご要望に応じて、選んでいただき、ご提供しています。
桐林:ハーレクイン社の『スタジオ』はパリ・オペラ座のガルニエ宮でも使われているもので、表面が少しつるっとしていてやや滑る感じもある。コンテンポラリー系の方はこうした少し滑るタイプの素材を好まれる傾向にあります。同時にクラシックバレエの使用にも耐えられるようにと、押したときグリップがきいて滑らないようになっています。例えばジャンプして着地したとき、ぐっと厚みで抑えられることで滑らないようにしているんです。
村越:ハーレクイン社の『スタジオ』はクラシックバレエとコンテンポラリーダンス兼用といったイメージですが、ハーレクイン社の『カスケード』の方は表面のグリップがよりきいていて、こちらはクラシックバレエ向き。英国ロイヤル・バレエ団などで使われています。英国ロイヤル・バレエ・スクールに留学し、イギリスのバレエ団でご活躍された先生が“これが輸入されるのを待っていたんです!”と言って導入してくださいました。あと先日NBAバレエ団に『スタジオ』を導入していただきましたが、日本でハーレクイン社の『スタジオ』を採用したバレエ団はNBAバレエ団が初めてです。評判はやはりいいですね。
リノリウムの耐用年数を教えてください。
村越:リノリウムの種類によって違いますし、使い方によっても変わってきます。日々リノリウムの上で踊っていると表面がだんだん削れてくるので、そうなると交換の必要があります。ハーレクイン社の『スタジオ』と『カスケード』は品質が良いだけにやはり長持ちして、使い方によっては10年以上交換しなくてもいいくらい。ただ、将来良いものを、と考え、今は、リーゾナブルな価格帯のリノリウムを導入する先生も多いです。
リノリウムが滑る場合はどうすればいいのでしょうか? 日々のメンテナンスは必要ですか?
村越:目には見えなくてもバレエスタジオの床には汗や皮脂が堆積していて、それが滑る原因のひとつになっています。あと服の柔軟剤に入っているシリコンや髪の毛に使う整髪剤、ヨガマットの素材が落ちたりするとやはり滑りやすくなってきます。そうしたときは薄めた中性洗剤で洗うことをおすすめしています。
桐林:お皿を洗うような要領で、泡立てた洗剤を使ってモップなどで洗っていきます。洗剤をしっかり取り去り、仕上げにから拭きまですれば、かなり滑りがなくなります。メンテナンスの頻度としては、滑るようになったなと感じたときで大丈夫です。ただかなり大変な作業ではあるので、ご要望があれば床洗いの専門業者も紹介しています。
村越:『カスケード』は、松ヤニは基本的に使わなくて大丈夫です。滑りにくいので必要ないでしょう。以前『カスケード』を導入された先生に、“松ヤニがいらないのでスタジオがキレイに保てる”と言っていただきました。これは私たちも言われて気付いたことですが、確かにキレイな場所で踊るというのは大事なことですよね。
バレエ床の専門家として、ダンサーのみなさんに伝えたいことはありますか?
村越:ダンサーにはケガや故障がつきものであり、本当に大変な職業だなと感じます。だからこそなるべくいい環境で踊り、ダンサーのキャリアを大事にして欲しいし、また先生方もなるべくラクな環境で教えていただきたい。リノリウムやバレエ床にしてもそうですが、素材によって身体への負担は軽減されます。まずはこういうものがあるんだということを知り、ぜひみなさんに使っていただけたらと思っています。
桐林:アテールのショールームにはバレエ床やリノリウムが敷いてあるので、実際に踏んで感触を確かめていただけます。おそらく実際に踏めば、その良さがわかるはず。ダンスに関わるみなさんにその違いを知っていただけたらと思います。またプロのバレエ団はもちろん、これからのダンサーを育てるという意味では、子供たちにぜひいい環境でレッスンして欲しい。バレエを教えている学校や個人のお教室に、もっとバレエ床とリノリウムの良い商品を普及していけたらと考えています。
【アテールホームページはこちら】⇒http://a-terre.com/
投稿日: 2018 年 12 月 14 日
カテゴリ: バレエを裏で支える人々