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PICK UP!

『Galaーガラ』2018年1月20日/21日(彩の国さいたま芸術劇場)
ジェローム・ベル インタビュー

ダンス界の「異才」ジェローム・ベルが見せる、ダンスの祭典『Gala-ガラ』
世界のダンス界で賞賛と論争を巻き起こしてきた「異才」ジェローム・ベル。
その活動はコンテンポラリーダンス界にとどまらず、クラシック・バレエ界でも注目を集めています。例えば、パリ・オペラ座から委嘱された『ヴェロニク・ドワノー』(2004)はオペラ座ダンサーのモノローグで綴られる作品で、赤裸々に自らを曝すドワノーの姿は観客を驚かせ、大きな話題を呼びました。また、2011年に彩の国さいたま芸術劇場で上演した『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』(2001年初演)はリヨン・オペラ座バレエ団のレパートリー(2007年〜2014年)に加えられるなど、クラシック・バレエ界でも高い評価を得ています。


© Photographer Josefina Tommasi
Museo de Arte Moderno de Buenos Aires (Argentina, August 2015)

6年ぶりの埼玉公演で登場するのはダンスの祭典『Gala-ガラ』。
これまで 50 都市以上で上演されてきた本作では、プロのバレエダンサーとしてNBAバレエ団の竹田仁美、新井悠汰が参加し、その他にもコンテンポラリーダンサー、俳優に加えて、6歳〜75歳のダンスや芝居とは全く縁の無いアマチュアまで、年齢、職業、国籍など多種多様なバックグラウンドをもつメンバーにより展開します。
舞台上に現れるのは、一つの社会の縮図。誰もがその技術を問われず踊ることの純粋な喜びを取り戻そうとする試みです。世界各地で絶賛を浴びている注目作『Gala-ガラ』、待望の日本公演を前に、ジェローム・ベルのインタビューをお届けします。


(c)Jasper Kuttner

ジェローム・ベル インタビュー

── まず今回上演される『Gala-ガラ』(以下『Gala』)のタイトルの由来を教えていただけますか?

ジェローム・ベル(以下JB):この作品タイトルに関して、関係があるとすればフランスで「学年末のガラ」と呼ばれているものになるでしょう。一般に、フランスのダンス学校は学年末に生徒たちが出演する舞台を準備します。これはダンスを学ぶ者たちが舞台に上がる瞬間であり、また、(ほぼ)プロとして舞台上に存在し、彼らがその能力の限界を超える瞬間でもあるのです。

──『Gala』を創作する直前に、ベルさんはプロのダンサーではなく、パリ郊外のセーヌ=サン=ドゥニの住民を対象としたワークショップを行われていました。このワークショップの成果が『Gala』として結実したのでしょうか?

JB:はい、間違いなくこの作品はサン=ドゥニのダンスの未経験者、アマチュアとの作業の成果から生まれたものです。彼らの一部は、現在『Gala』のパリ・バージョンに出演しています。『Gala』が上演にこぎつけるには長いプロセスが必要でした。2年はかかったと思います。なぜなら、私が通常プログラムされるような実験的な演劇のフェスティバルやいわゆる「コンテンポラリー」と呼ばれるダンスの業界では、アマチュアリズムを受け入れない空気があったからです。ある人たちにとってみれば、アマチュアとは決して舞台の上に存在してはならない人のことであり、想定外の存在でした。


© Photographer Bernhard Müller

多様な人々が共存する舞台
── ダンスの素人やプロではない愛好者を出演者とすることで、『Gala』では極めて多様な背景を持つ人々が同一の舞台上に共に存在しています。「多様性の共存」にこの作品の生命が賭けられていると言ってもよいと思います。ベルさんは、共同体に関してどのような考えを持って創作に臨むのでしょうか? また、『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』(以下『ザ・ショー』)とはどのような違いがあるでしょうか?

JB:私にとって、『Gala』と『ザ・ショー』の間には大きな違いがあります。まず『Gala』では『ザ・ショー』以上に出演者が大いに踊ります。またダンサーへの指示もあまりありません。『ザ・ショー』の場合、出演者に対する指示が書かれてあり、出演者はコントロールもされていました。またかなりミニマルで尖った作品でもありました。『Gala』には出演者に向けて書かれた指示というものがほとんどありません。また、出演者たちはほとんどの部分を即興で踊っています。最終的に『Gala』は華々しく、同時にある批判をもはらんだフィナーレを迎えます。その批判とは、ダンスや社会における身体の画一化や標準化に対して
向けられたものです。しかし、この2 つの作品はそれぞれ別の方法で、共同体の問題を扱っています。『ザ・ショー』では、共同体は各々のパフォーマーの個性や特異性を際立たせるものとして機能していました。
『Gala』ではダンサーたちの多様性が、作品の中に共同体を成立させ、それを喜びにあふれたものとして活気づけていきます。

──『Gala』は一つの共同体を生成すると同時に、舞台上で個々の出演者の存在感を際立たせている点も素晴らしいと思います。出演者たちはダンスのプロではないにもかかわらず、その存在のユニークさ、魅力に目を奪われてしまいます。この作品は、共同体と個人という両極的で時に矛盾する要素を調停しているように思われました。

JB:まさにその通りです。私の仕事は、共同体と個人というこの手強い組み合わせを巡って展開しています。私にとって重要なのは、共同体が個人を疎外しないこと、また反対に個人が自身の属している共同体を妨害すべきではないということです。それに対してダンス的あるいは演劇的な解決策を探すことが私の仕事だと考えています。『Gala』では『ザ・ショー』のようにルールを作り出すポップ・ソングがあるわけではなく、出演者たちはより自立した存在です。『Gala』の第1部では出演者たちに対して何をすべきかを伝える紙が置かれていますが、第2部では、もはや私からの指示が舞台上にないことをお分かりいただける
でしょう。つまり、ある種の解放がここにはあります。出演者たちは彼ら自身のダンスを踊っているのです。


© Photographer Herman Sorgeloos
Kaaitheater, KunstenFestivaldesArts, Brussels (Belgium, May 2015)

──『Gala』は現代の共同体に関する問題に触れていると思います。舞台上には出演者たちの様々なアイデンティティ、個性、身体性、文化的背景が同一化することなく共存しています。大げさに聞こえるかもしれませんが、多くの移民が住むパリ郊外でのリサーチやワークショップから誕生したこの作品は、経済格差や文化や価値観の違いによる対立が様々に生じている現代の困難に対応しているように思われました。私の中では、2015年にブリュッセルの劇場で『Gala』を観たことと、その後パリのバタクラン劇場、パリ郊外のスタッド・ド・フランスで同時多発テロが起こったことが合わせて記憶されています。このように対立が悲劇的な形で現実に起こっている以上、他者と向きあうこと、多様性が共存するための
方法やヴィジョンについて思考することは、今まで以上にアクチュアルな課題だと感じています。

JB:そう思います。

(文:越智雄磨 埼玉アーツシアター通信第72号掲載記事)

 

 

★ ☆ ★ 公 演 情 報 ★ ☆ ★

公演日時:2018年1月20日(土)15:00開演/1月21日(日)15:00開演

上演時間:約90分(途中休憩なし)

会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

構想・演出:ジェローム・ベル

主催:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団

詳細はこちらhttp://www.saf.or.jp/stages/detail/4148