津川友利江インタビュー(バレエ・プレルジョカージュ)
~カンパニー・フランスでの生活/横浜バレエフェスティバル出演~
アンジュラン・プレルジョカージュ率いるバレエ・プレルジョカージュで活躍する津川友利江さんが、この夏『横浜バレエフェスティバル2016』に登場。 プレルジョカージュの振付作であり代表作のひとつ「ロミオとジュリエット」より、死のパ・ド・ドゥを披露します。
今回の来日に先駆け、津川さんにインタビューを敢行! 作品と公演への意気込み、フランスでの生活についてお聞きしました。
(c)Julien Ginoux
・横浜バレエフェスティバルではプレルジョカージュの代表作のひとつ「ロミオとジュリエット」より死のパ・ド・ドゥを踊ります。この作品/シーンを選んだ理由とは? 特別な思い入れなどありましたらお教えください。
プレルジョカージュ版「ロミオとジュリエット」は本来1時間30分の作品ですので、ラストシーンの抜粋のみでお客様に本作品の世界感に浸っていただくというのは、私たちにとって難しい挑戦になると思います。ですが命をも捧げてしまうほどの愛と、悲しみに溢れたこのデュオを、ロミオ役のバティストと日本の皆様の前で踊らせていただけることを、大変嬉しく思っております。
・プレルジョカージュ版「ロミオとジュリエット」の特徴、魅力とは?
プレルジョカージュ版の特徴は、キャピュレット家とモンターギュー家の対立する関係が支配者層vs支配される側という構図に置き換えられているという点です。
支配者層出身の令嬢ジュリエットとホームレスのロミオが恋に落ち、愛を誓い…その後2人が迎える悲劇的な結末はシェイクスピアの原作で皆様がご存知の通りです。
どの時代にも存在する階級社会が生む格差。なにが正義でなにが悪なのか。さまざまな面から問題提起をする作品となっています。
Romeo&Juliette (c)Jean-Claude Carbonne 4
・ペアを組むバティスト・コワシューについてご紹介ください。
バティストはフランスでも名門のリヨン国立高等コンセルヴァトワールを卒業後、バレエ・プレルジョカージュに入団しました。長身で美しくしなやかなラインを生かし、時に繊細、時には力強く、鋭敏な動きも使い分けられる素晴らしいダンサーです。またカンパニーでのダンサーとしての活動と同時に、振付家としても自らの作品を発表しています。
私たちはほぼ同時期に入団し、さまざまな作品で共演してきましたが、2人で一緒にタイトルロールを努めさせていただいたのは、このロミオとジュリエットが初めてでした。
・アンジュラン・プレルジョカージュはどんな方ですか? ダンサーからみた彼の作品の醍醐味とは?
アンジュランはダンサーひとりひとりを本当によく見てそれぞれの個性を理解し、成長させてくれるディレクターです。時には厳しい言葉を受けることもありますが、彼に求められることをクリアしていけば確実に前進していることを実感できるんです。
彼の作品はとても緻密に作られていて、特に大人数で踊るシーンは動きもリズムも本当に細かいところまで徹底的に合わせます。なかなか大変な作業ですが、それが客席から見たときの美しさとパワーとなっているのだと思います。
Les Nuit (c)Patrick Herrera
・プレルジョカージュの作品からは、独特のエネルギーや表現法、大人の色香が伝わってきます。踊り手として苦労する部分、日本人ならではのハンディを感じる部分はないですか? また、それらをクリアするためにしていることとは?
アンジュランはダンサーそれぞれの個性を大切にしてくれるので、特に表現の面でハンディを感じたことは無いです。むしろ日本人特有とも言える、内に秘めた表現、繊細さといったものを求められる場面もあるので、舞台では過剰に演じることなく、私自身がありのままに、自然に感じられる表現をするようしています。その方が説得力のある演技となると思うのです。
・バレエ・プレルジョカージュについて、現在所属しているダンサーのおおよその内訳をお教えください。
カンパニーには現在24名の正団員(男性12名、女性12名)がおり、プロジェクトや公演によってはオーディションで選ばれたフリーランスのダンサーが10名ほど加わることもあります。
国籍は様々(フランス、日本、イタリア、スペイン、デンマーク、ベルギー、アルバニア、カナダ、オーストラリア、ロシア…)で、世界中からダンサーが集まってくる、とてもインターナショナルなカンパニーです。日本人は白井渚さんと私の2人です。
(c)Didier Philispart
・バレエ・プレルジョカージュでのおおまかなスケジュールをお聞かせください。
10:30-12:00 クラス(クラシックもしくはコンテンポラリー)
12:15-14:30 リハーサル
14:30-15:30 昼休憩
15:30-18:00 リハーサル
…というのがスタジオで過ごす1日の流れです。クリエーション期間中など、エクサンプロヴァンスにあるカンパニーの拠点地Pavillon Noirではだいたいこのような感じです。
公演日は、午後からのクラスを受け、2〜3時間の舞台リハーサル(もしくはゲネプロ)をした後本番に臨みます。
年間公演数は100〜120、そのうちのおよそ半分が海外公演で、 とてもツアーの多いカンパニーなので一年中ほとんど旅に出ています。
・最近は主にどんな作品を踊っていますか? 特に想い出深い作品や役柄、公演などありましたらお聞かせください。
2015/2016シーズンは,今回横浜バレエフェスティバルで踊らせていただく“ロミオとジュリエット”の他にも“Spectral Evidence/La Stravaganza”というアンジュラン・プレルジョカージュがニューヨークシティバレエのために振り付けた2作品、そして“Empty Moves part1,2&3”を主に踊らせていただきました。
どれもすごく大好きな作品なのですが、特にこのEmpty Movesは4人のダンサーが1時間45分舞台を離れること無く踊り続けるという、体力・集中力・技術力・チームワークを必要とするもので、苦労した分愛着もある作品です。
また5月末からは、9月に初演を迎える新しい作品のクリエーションも始まり、現在はそちらに集中して取り組んでいます。
Empty Moves (c)Didier Philispart
・海外でプロのダンサーとして踊る上で欠かせないこと、カンパニーのトップダンサーとしてあり続ける上で必要なこととは?
連日の公演、リハーサルに全力で取り組むためにとにかく健康であること、怪我をしないことでしょうか。思いきり踊れないのはダンサーにとって本当に辛いことです。おかげさまで私は大きな怪我もなくこれまで踊り続けてこれたので、両親には丈夫に産んでもらったことを本当に感謝しています。また踊りの癖は長い間の繰り返しの蓄積で怪我につながることも多いので、朝のクラスでは苦手なエクササイズ、アンシェヌマンほど真剣に取り組むよう意識しています。
今のカンパニーで大切にしていることはチームワークです。責任ある役を任せていただくときは特に、舞台はみんなで作り上げるものだということを常に心がけるようにしています。
・17歳で海外に渡り、カンパニーのトップダンサーに登り詰めるまで、大変だった想い出、忘れられないエピソードなどありましたらお聞かせください。
まだカンヌの学生だったころ、初めてバレエ・プレルジョカージュでクラスを受けさせてもらったとき、プロとして活躍しているダンサーたちの動きとオーラに圧倒されたのを覚えています。自分の未熟さを実感して、かなり落ち込みました。あのときに見た先輩たちのように今私は踊れているのかどうか…まだまだ課題ばかりです。
・休日は主に何をして過ごしていますか? 津川さんの気分転換法とは?
読書をしたり、映画を観たり、カフェに行ったり。普段旅に出ていることが多いので、休日はあまり出かけずゆっくり過ごすことが多いです。
(c)Julien Ginoux
・ダンサーとして食生活で気をつけていることはありますか?
ツアー中は外食ばかりになるため、家にいる時は出来るだけ自炊するようにしています。やはり日本食が一番好きですし体にも合っているので、お米を炊いてあとは簡単に野菜中心のおかずを作ります。あとは最近ブレンダーを頂いたので、今流行りの(?)スムージーデビューもしました。(笑)
・フランス生活の良さ、不満を感じる部分とは?
フランス人はみんな遊び上手で、何気ない日常やゆっくりとした時間を満喫する過ごしかたを知っているように思います。ただ、規則を守る、ということは得意ではないようです。(笑)…というか彼らにとって最優先事項では無いのかもしれません。よく言えば融通が利く、とも言えるのでしょうが、迅速な対応をお願いしたい時にはかなりの忍耐力が必要となります。(笑)
・日本へ里帰りするときにすること、したいことは? 今回の帰国で楽しみにしていることは?
まずは家族や友人たち会うこと、そして美味しい日本食が食べたいです。毎回日本に帰ると、毎食大好物の納豆を食べます!エクサンプロヴァンスではなかなか手に入らないですし、値段も高いので…。
・最後に、日本のファンの方にメッセージをお願いいたします。
今回横浜バレエフェスティバルのメンバーとして素晴らしいダンサーの皆さんと同じ舞台に立つチャンスをいただけること、本当に嬉しく、光栄に思っております。またこの機会に日本で上演の少ないプレルジョカージュ作品にも興味を持っていただけたら幸いです。
★ ☆ ★ 公 演 情 報 ★ ☆ ★
横浜バレエフェスティバル2016
~バレエの”力”が8.7に”かながわ”へ集結!
主催:株式会社ソイプランニング/神奈川県民ホール
後援:横浜アーツフェスティバル実行委員会
開催予定:2016年8月7日(日) 神奈川県民ホール
18:00開演 20:45頃終演予定
芸術監督:遠藤康行(元フランス国立マルセイユ・バレエ団 ソリスト/振付家)
プロデューサー:吉田智大
★ ☆ ★【上演予定作品】★ ☆ ★
◆【第1部】(フレッシャーズガラ)
■クラシックバレエ作品のヴァリエーション(オーデイション合格者2名)
■エスメラルダのヴァリエーション
みこ・フォガティ
■「ラ・シルフィード」よりパ・ド・ドゥ
菅井円加(ハンブルク・バレエ団)
二山治雄(白鳥バレエ学園)
◆【第2部】 World Premium 1
■新作(タイトル未定)
高瀬譜希子
演奏:佐藤健作
■「ライモンダ」第1幕より夢のパ・ド・ドゥ ヌレエフ版
米山実加 (ボルドー・オペラ座バレエ団)
高岸直樹(元東京バレエ団)
■新作(タイトル未定)
みこ・フォガティ
二山治雄(白鳥バレエ学園)
■瀕死の白鳥
倉永美沙(ボストン・バレエ団)
■Lilly 振付:+81
青木尚哉(ダンサー・振付家)
柳本雅寛(コンテンポラリーダンサー・ +81主宰)
◆【第3部】 World Premium 2
■新作(タイトル未定)
米沢唯(新国立劇場バレエ団)
遠藤康行(元フランス国立マルセイユ・バレエ団 ソリスト・ 振付家)
■「エスメラルダ」よりダイアナとアクティオンのグラン・パ・ド・ドゥ
近藤亜香(オーストラリア・バレエ団)
チェンウ・グオ(オーストラリア・バレエ団)
■ロミオとジュリエットより死のパ・ド・ドゥ 振付:アンジェラン・プレルジョカージュ
津川友利江(バレエ・プレルジョカージュ)
バティスト・コワシュー(バレエ・プレルジョカージュ)
■※未定(クラシックバレエ作品の予定)
倉永美沙(ボストン・バレエ団)
清水健太(ロサンゼルス・バレエ団)
*演目は都合により変更となる場合がございます
横浜バレエフェスティバル詳細はこちら⇒ http://yokohamaballetfes.com/
投稿日: 2016 年 6 月 24 日
カテゴリ: インタビュー