【PICKUPについて】

このコーナーはバレエナビが取材させて頂いたホットな話題を取り上げております。
バレエやダンスに関する人・商品・サービス・イベント・公演など取り上げさせて頂く話題は多岐にわたります。
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PICK UP!

瀬島五月(貞松・浜田バレエ団)インタビュー
~飛躍を続ける注目のバレリーナの過去・現在・未来~

バレエ公演の華といえるプリマバレリーナ。大舞台で光り輝くには確かなテクニックと豊かな表現力はもちろん客席を包みこむようなオーラが求められるでしょう。神戸の貞松・浜田バレエ団の瀬島五月さんは三拍子を備えた大型プリマとして評価を高めています。近年は東京の舞台で主役を務める機会も増えてきました。注目の瀬島さんに生い立ちから海外での経験、貞松・浜田バレエ団での活動、今後の展望までをお伺いしました。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家) 撮影:石川陽

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- ジュニア時代のこと -

バレエを始めたのはいつですか?
「7歳から始めた」とあちこちでお話ししてきたのですが、最近8歳になっていたと気付きました。貞松・浜田バレエ学園本部教室で始めました。0歳の時からの友達と、もうひとりの友達のバレエごっこに付いていけないのが悔しくて……。初めて習ったのは小西康子先生です。踊ることは楽しかったのですが真面目な生徒ではありませんでした。友達と遊ぶのが楽しくてレッスンに行かない(笑)。週2回の予定が月2回とかになりました。バレエ以外にはエレクトーンを4歳から習っていました。運動神経は普通でした。初舞台は発表会で踊った“カーネーションのバレリーナ”です。『ラ・バヤデール』でニキヤがヴェールを付けて踊る曲に合せて踊りました。楽しくノリノリに踊ったのを覚えています。

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中学2年生「こうべ全国洋舞コンクール」入賞

小学校高学年~中学生の頃の様子を聞かせてください。
小学校5年生から浜田蓉子先生に習いました。蓉子先生は佇まいからしてピリッとしていて厳しかったです。発表会、バレエ団公演に出ながらコンクールにも小学校6年生から参加していました。中学生になると週2回くらいはレッスンを受けるようになりました。転機は高校1年生の時の「こうべ全国洋舞コンクール」。それまで週1~2回しかレッスンしていなかったのに賞をいただいていたんです。でも、この時初めて予選落ちしました。ちゃんと練習しなければいけないと思い、それからバレエに対する意識が変わりました。

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高校は公立の進学校だったそうですね。
入学時からバレエで生きていくと考えていましたし親も応援してくれました。レッスンのない日も自習しました。週7回レッスンしていました(笑)。ニーナ・アナニアシィヴリやシルヴィ・ギエムが好きだったこともあり当時からぼんやりとですが海外に行ってみたかったです。高校2年生の時に「アジア・パシフィック国際バレエ・コンクール」ジュニアの部に出て日本人の中で3番目に入りました。「ローザンヌ国際バレエ・コンクール」にも出場しましたが、現地で熱を出したこともあり結果を出せませんでした。その後、高校3年生の夏に「全日本バレエ・コンクール」ジュニアの部で第1位をいただきました。

 

- ロンドンでの研修 -

高校卒業後の進路は?
「外国に行きたいからバレエ団には入らない」蓉子先生にそう言うと物凄く怒られました。声がかかった訳でもないのに自分から行っても何にもならないと。貞松・浜田バレエ団入団後「アジア・パシフィック国際バレエ・コンクール」シニアの部で第1位をいただきゲイリーン・ストック先生が校長を務めるロイヤル・バレエ・スクールから研修、ロイヤル・ニュージーランド・バレエ団から入団の誘いをいただきました。ロイヤル・バレエの舞台の雰囲気が大好きだったのでロイヤル・バレエ・スクールの最終学年に入れていただきました。

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高校3年生「全日本バレエ・コンクール」第1位

ロイヤル・バレエ・スクール時代の様子をお聞かせください。
3年制に移行した最初の年で担任はレスリー・コリア先生。驚いたのは皆が右にも左にも均等に回れることです。自分はコンクールばかり受けていたこともあり右ばかりで回っていたので左は全然回れない。最終学年なので公演のためにレパートリーを覚える機会が多かったです。ロイヤル・バレエの舞台に触れることも多く『コッペリア』には出演しました。吉田都さんやカルロス・アコスタさんが主役を務めゼナイダ・ヤノウスキーさんが「祈り」を踊ったりしていました。サラ・ウィルドーさんがゲストのイーサン・スティーフェルさんと踊るのを観て、なんて綺麗で素敵なんだろうと。卒業公演で主役を踊った『ア・タイム・トウ・ダンス』では振付者のスタントン・ウェルチ先生にご指導いただきました。

 留学後の進路は?
管理不足で太ってしまったためオーディション回りはせず帰国しました。蓉子先生が「もう一度ニュージーランドに連絡を取ってみたら?」といってくださったので、ディレクターに手紙を書きました。すると「OK」という返事がきました。シーズンの始まりは1月なので、夏に日本に帰ってきて年末の『くるみ割り人形』に出た後、年明けに入団しました。

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- 充実していたニュージーランドでの生活 -

ロイヤル・ニュージーランド・バレエでの活動はいかがでしたか?
本拠はウェリントンですがツアーカンパニーなので移動して踊っての連続でした。年間公演数は90回くらい。ダンサーが32人しかいなくて、しかも南北に分けてツアーする。人がいなくなってしまい『ライモンダ』第3幕の男性のパ・ド・カトルで3人の踊りになってしまったこともありました。4人が続けてザンレールをする所で音をずらして踊る(笑)。印象に残っているのが現地のマオリ族とのコラボレーションです。彼らがハカダンスを踊り、バレエの方ではニュージーランドのアーティストの曲を使った作品『IhiFrenzy』を創りました。踊ったのは『パキータ』のエトワール、『ゼンツァーノの花祭り』のパ・ド・ドゥ、『白鳥の湖』のパ・ド・トロワや大きな二羽の白鳥、創作では『IhiFrenzy』のミドル・ガール、『クリスマス・キャロル』のゴーストなどです。憧れていた下村由理恵さんが『白鳥の湖』に客演されたこともありました。12回くらい踊られたのですがいつも完璧!ツアー中はお部屋に呼んでくださり手料理を御馳走になるなど仲良くしてくださいました。

ニュージーランドで3年弱踊った後、日本に戻り貞松・浜田バレエ団に再入団します。
過ごしやすい気候でしたし毎日充実していましたが疲労骨折してしまいました。痛くてバレエを辞めたいと思いました。ディレクターの交代もあり環境の変化になじめなくなったこともありました。交際していた同僚アンドリュー・エルフィンストンの故郷オーストラリアで3ヶ月くらいゆっくりしてから帰りました。帰国後足も痛くなくなり、また踊りたくなりました。アンディも私を追って日本に来ました(笑)。早くから海外に出たので、日本のバレエ団のシステムやしきたりに戸惑うことも多く、理解するのに時間がかかりました。今思うと最初は皆がビックリするようなことをやらかしていたと思います(笑)。

白鳥の湖 より 第4幕
『白鳥の湖』より第4幕【テス大阪】

 

- 家族のような存在~貞松・浜田バレエ団のこと~ -

貞松・浜田バレエ団はどういうバレエ団ですか?先生方の印象も教えてください。
舞台に出ているままの雰囲気。家族的なバレエ団です。小さな時から皆お互いをよく知っている。蓉子先生はバレエのお母さんみたいな存在。一人ひとりをよく見て成長を考えて役をあたえてくださる。貞松融先生はドンみたいな存在です。おじいちゃんみたいで愛くるしいですが(笑)怒ると怖い。融先生がスタジオに入ってくると緊張が走る。でも、おっしゃることに愛があります。貞松正一郎先生は私が小さな時から踊られているカッコいい王子様。尊敬していますし教えていただきたいことがたくさんあります。東京に来るとバレエ関係者で正一郎先生をご存じない方はいません。凄いなあと思います。

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貞松・浜田バレエ団のレパートリーで好きな作品を教えてください。
古典では『白鳥の湖』第4幕、貞松版ならではのオデットと王子のアダージョが大好きです。そこから幕切れにつながって白鳥たちがロットバルトに力強く立ち向かう。『くるみ割り人形』は2つのヴァージョンがあります。昔からやっている「お菓子の国ヴァージョン」に関してクララ以外は多分全部踊っていると思います。『眠れる森の美女』のオーロラ姫はジュニアバレエ団時代から節目に踊らせていただいています。いつも自然に踊れる。特に第3幕のヴァリエーションはしっくりきます。昔姫だったかな私!?みたいな(笑)。

眠れる森の美女 より 第3幕
『眠れる森の美女』より第3幕【撮影】テス大阪

毎年恒例の「創作リサイタル」を中心に現代作品もたくさん踊られていますね。
オハッド・ナハリンさんの『DANCE』(『マイナス16』改題、2005年に貞松・浜田バレエ団初演、以後内外で再演重ねる)では、前の作品が終わり休憩中から幕が上がるまで即興で踊り続けるソロを任されました。インプロをしたことがなく自分の引き出しの少なさに愕然としました。毎日病んでいて、お風呂の中でネタを考えていました(笑)。最初に稲尾芳文先生が来られ公演直前にオハッドも加わって3週間朝10時からGAGA(ナハリン独自のダンス・メソッド)のクラスを受けた後リハーサルを夕方の5時、6時までやっていました。心身ともにクタクタになり地獄のようでした。でも観客の皆様にあんなに喜んでもらえるとは思っていなかったです。皆さんがノッてくださったのでテンションが上がりました。

DANCE
『DANCE』オハッド・ナハリン振付【撮影】テス大阪

バレエ団OBで日本人として初めてヨーロッパの公立劇場の芸術監督を務めている森優貴さん(ドイツのシアター・レーゲンスブルク・タンツ)の作品も踊られています。
『Memoryhouse』(2012年に貞松・浜田バレエ団が世界初演、翌年新国立劇場地域招聘公演でも上演)が特に印象に残っています。本番前に広い所でリハーサルをすることになり会場を借りました。そこを薄暗くして練習したのですが指導している森優貴は神懸っているなと。何か降りて来ているんじゃないかなとすら思いました。森作品は動きが複雑なのに音にちゃんと合っている。ここからこの音に合せてくるか!といつも驚かされます。

Memoryhouse
『Memoryhouse』森優貴振付【撮影】テス大阪

 

- 舞台に立つ心構え、パートナーのこと -

舞台に立つ上での心構え・気を付けていることを教えてください。
いつも完璧を目指しています。技術的なことでも百を目指し体の角度や手の角度にも理想があります。『眠れる森の美女』だったら「こういうオーロラ姫をやりたい!」とか、そういうことを思い描いて追求します。でも、なかなかできない……。音楽の解釈に関して自分の感覚では音が自然に入ってくる。それに体が反応しちゃうんです。カウントで説明されると逆に覚えられないですね。役作りのために色々な映像や音楽を見聞きします。出産後は時間が取り難いのですがバレエ公演など舞台もできる限り観るようにしています。

公私のパートナー、アンドリュー・エルフィンストンさんとコンビには定評あります。
アンディは大きいこともあり身を任せられるというか安心感がある。私も大きいので華奢な男性だと遠慮してしまうこともあって……。最初はやり難い所もありましたが、リフトや体重移動、距離感の取り方などいっぱい練習しました。息が合っているとすれば彼が合わせくれているからです。私は勝手に踊っているので(笑)。プライベートでは1児(5歳)がいます。アンディは父親と言うよりも兄弟みたい。ママを取りあうライバルみたいです(笑)。

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『6DANCES』イリ・キリアン振付【撮影】テス大阪

2010年の出産後4か月で舞台復帰されました。前後で変わったことは?
大きなお腹で重たく腹筋も締まらない。思うように体を動かせない。その時「体の動かし方で動く」みたいな感覚が身に付いた気はします。体の内側の使い方のコントロールができるようになりました。それまでは形を追うことに必死で、筋力で動かそうとしていたのですが、内側の骨を立てるだとかそういうことができるようになりました。

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- さらなる飛躍の時を迎えて -

 2013年、洋舞界の次代を担う新進気鋭ダンサーに贈られる中川鋭之助賞を受賞されました。東京での活躍の場も広がり日本バレエ協会の都民芸術フェスティバル『白鳥の湖』(2013年)、『アンナ・カレーニナ』(2014年)の主演を務め、新国立劇場バレエ団2014/2015シーズンの開幕を飾る新制作『眠れる森の美女』のオーロラ姫とリラの精を踊られます。
中川賞は関西で踊る自分には縁がないと思っていたので受賞の報に驚きました。色々な作品を踊る機会に恵まれ嬉しいのですがバレエ団を離れて踊るのは凄く緊張します。ゴルスキー版『白鳥の湖』ではロシア版を渡部美季先生にご指導していただき勉強になりました。プロコフスキー版『アンナ・カレーニナ』では原作を読み映画を観てアンナのイメージを膨らませました。自分にも小さな子供がいてアンナと同じ境遇なので共感しましたが、今思うと異なった角度から演じれば、もうちょっと違った一面が出せたかもしれません。新国立劇場からゲストのお話をいただいたことには「ありがとうございます」としか言い様がありません。人生の一番の山だというくらいに捉えて登ろうと思います。

ドン・キホーテ より 第1幕
『ドン・キホーテ』第1幕【撮影】瀬戸秀美

踊りたい役や今後の目標をお聞かせください。
昔からの願いなのですが『ロミオとジュリエット』全幕を踊りたい。ジュリエットに自然に入っていけそうなので。私、見た目とは違って少女だと思うんですよ(笑)。ピュアな役の方が入りやすい、感情を出しやすいと思うようになりました。それから堤悠輔君(貞松・浜田バレエ団バレエマスター)と話しているのですがマッツ・エック作品を踊りたいですね。他にも『ラ・バヤデール』とかバレエ団にないレパートリーを踊りたいです。でも最近、今までにやったことをもう1回やりたいと思えるようにもなりました。改めて違う角度からやってみたい。将来もバレエに携わると思うのですが、意外にも違うことをやり始めるかもしれません(笑)。大学には行きたいと思っています。何を学ぶという具体的な考えは今の所ないのですが、高校しか出ていないので、もう一度教育を受けたいですね。

 

★☆★ 公 演 情 報 ★☆★

●新国立劇場
「眠れる森の美女」※瀬島五月さんご出演
2014年11月8日(土)~16日(日)
詳細はコチラ http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/sleeping/

●貞松・浜田バレエ団公演
「くるみ割り人形」
2014年12月20日(土) お菓子の国Ver ※瀬島五月さんが雪の女王役でご出演
2014年12月21日(日) お伽の国Ver
詳細はコチラhttp://www.sadamatsu-hamada.com/

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