NBAバレエ団2月公演『ロミオとジュリエット』直前インタビュー
NBAバレエ団が、この冬マーティン・フリードマン振付『ロミオとジュリエット』を日本初演! 間近に迫った開幕に向け、芸術監督の久保紘一さん、ジュリエット役の峰岸千晶さんと竹内碧さん、ロミオ役の宮内浩之さんの4名にインタビュー。作品への想いと意気込み、リハーサルの様子をお聞きしました。
インタビュー・記事:小野寺悦子
——2月に開幕を控えたNBAバレエ団公演『ロミオとジュリエット』。マーティン・フリードマン版の日本初演を迎えます。
久保:マーティン・フリードマン版はもちろん、NBAバレエ団で『ロミオとジュリエット』を上演するのは今回が初めてです。もともと僕自身『ロミオとジュリエット』が好きで、いつか必ず上演したいという想いがありました。『ロミオとジュリエット』は大作であり、やっとできるタイミングが来たのかなという気持ちでいます。峰岸さんと竹内さんはドラマ性を求められる作品が合うのでジュリエットにぴったりだし、宮内くんは存在自体がロミオそのもの。今回は宮内くんとWキャストでウラジーミル・シクリャローフをゲストに招聘します。彼はマリインスキー・バレエのなかでも別格扱いの大スター。ロミオ役で定評があり、ぜひうちで素晴らしい踊りを披露してもらいたいと思っています。
峰岸:ジュリエットというのは大プリマが演じる役というイメージがあり、なかなかできるものではないと考えていたので、まさか自分が踊る日が来るとは思ってもみませんでした。私はシクリャローフとペアを組みますが、以前彼がディアナ・ヴィシニョーワと踊った『ロミオとジュリエット』のDVDを観て、とてもエモーショナルでロミオにぴったりのダンサーだなと感じたのを覚えています。彼と一緒に踊ることで私も違う感情が出てくるだろうし、自分はどんなジュリエットができるだろうかと今からすごく楽しみです。
宮内:『ロミオとジュリエット』はバレエ作品のなかでも特に人気があり、僕もバレエをやっている以上いつかロミオを踊ってみたいという思いがありました。ただやはり大作でもあるので、まさか本当に自分ができるとは考えてもみなかったというのが正直な心境です。シクリャローフとのWキャストと聞いたときは驚きましたけど、配役していただいたからには相手が誰であろうと意識せず、僕は僕のできることを精一杯するしかないという気持ちでいます。
竹内:私は以前『くるみ割り人形』のクララを踊らせてもらいましたが、こうして全幕ものでずっと物語を引っ張っていく役を踊るのは今回が初めてで、最初はどうしようという戸惑いもありました。ただもともと物語や役の気持ちを踊りで表現することが好きなので、ジュリエットを演じることができすごく幸せです。私は峰岸さんとWキャストで出演しますが、私自身峰岸さんのファンで彼女の踊りが大好き。峰岸さんに追いつかなきゃと思う部分もありつつ、私にしかできないものもきっとあると信じていて、また違うタイプのジュリエットをおみせできればと思っています。
——久保さんはコロラドバレエ団時代に、フリードマン版の『ロミオとジュリエット』に主演していますね。
久保:僕がフリードマン版のロミオを踊ったのは2003年で、30歳のとき。振りが詰め込まれていたりとフィジカル的に大変だったのは覚えていますが、当時は体力もあったし疲れもない。楽しかった思い出の方が大きいですね。技術力も体力も必要で、なおかつ演劇性や芸術性が問われる作品であり、全ての要素が入っているのでやり甲斐もありました。
自分が踊っているから想い入れが強いというのもあるけれど、フリードマン版はやはりいい作品だなと感じます。すごく音楽的で、音が溢れてる。剣で闘うシーンは他の版と比べてもよりリアルで楽しいと思うし、そういう意味でも飽きさせない魅力がありますね。
宮内:久保さんが踊った当時のDVDを観させていただきましたが、“なんてすごいロミオなんだ”と圧倒されました。その後振りうつしが始まったら、想像以上に難しくて……。最初は本当に何もできなかったです。
峰岸:私は久保さんが踊ったステージを現地まで観に行きました。久保さんはどちらかというとクラシックのイメージがあり、テクニックに秀でたダンサーだと思っていましたが、こういう演劇性のある役柄もすてきだなと改めて感じましたね。作品自体も素晴らしくて、あのときの舞台に自分が出ると思うとすごく感慨深いものがあります。
——フリードマン氏から指導を受けた印象をお聞かせ下さい。
竹内:まず去年の7月にフリードマンさんがいらして、振りうつしをしてくださいました。曲の中に動きがたくさん詰まってて、最初はとにかく振りをこなすだけで精一杯でしたね。今年の1月にまた改めてリハーサルが再開されましたが、そこでやっと気持ちから役に入る感覚がちょっとわかってきたというか、感情から踊るということがより鮮明になってきたように思います。
宮内:本当にたくさん動くんだなというのが最初の印象で、音楽の中でずっと動き続けている感覚があります。ただマーティンには“音楽から感情を出せ”と言われていて、やはりそこが彼の一番求めるものなのかなと考えています。だけど実際踊っていると動きがとにかくハードで、そこに感情を入れていくのはすごく難しいですね。
——久保さんというお手本が身近にあり、自身の経験を踏まえたアドバイスも聞ける。ダンサーにとっては非常にいい環境と言えるのでは?
宮内:やはり同じ役を経験してきた方にアドバイスをいただけるのは嬉しいですね。久保さんからはいろいろ助言をいただきますが、あぁなるほどなとすぐわかるものもあれば、意味はわかっていても感覚的にわからないものもあるし、もっともっと踊り込まないとわからないものもあって……。まだまだ研究が必要です。
久保:頭では理解をしてて、自分でもやってるつもりなんだけどできないことってあると思うし、僕も現役のときはそうでした。あと特殊なリフトが多いので、そこは教えてあげられるところではある。僕も同じように教わってきたことですから。もちろん自分が踊っているから“こうして欲しい”という部分もいろいろあるけれど、彼らには彼らの良さがある。いちから百までこうしろと言うのもどうかと思うし、どこまで口を出した方がいいかというのは難しいところです。とはいえ、実際のところ結構口うるさく言っているかもしれません(笑)。願わくば、僕がひとことも口を出さないくらいになって欲しいですよね。
——本作の主演は特に演劇性が求められます。そこにやり甲斐を感じる部分はありますか?
峰岸:やり甲斐は全然違います。私自身はもともと感情を出すのはあまり得意な方ではなかったけれど、あるときからこんなに面白いものなんだと気付き、演劇性に興味を持つようになりました。最初のターニングポイントは、初めてバレエ団で全幕を踊らせてもらった『リーズの結婚』。全幕で演技をするのは初めての経験で、そのとき“なんて面白いんだ、バレエって踊るだけじゃないんだ”と気付かされた感じです。その後『クレオパトラ』に出演して、そこで悲劇に目覚めたというか……。悲劇の魅力というものを知り、ジュリエット役も演じてみたいとそのとき初めて思いました。
竹内:私は逆に踊りで感情をわっと出しちゃうタイプ。入団してすぐ『真夏の夜の夢』にヘレナ役で出演して、そのとき初めて感情から動きが生まれる経験をしました。感情が伴うと勝手に身体が動くのがすごく面白くて、それからただ単に踊るより感情がついてくる役が好きになりましたね。今回の『ロミオとジュリエット』もそうですが、はじめは振りをこなしたりテクニック的なことで精一杯になってしまいがち。踊り込んで少しクリアになってくると違う部分にも意識が向くようになり、そこで初めて感情が生まれるような気がします。
——幕開け間近となりました。ご自身のなかで今課題とするものは?
峰岸:一回でも多く全幕を通し、自分のなかに沸いてくるいろいろな感情の動きを体験すること。13歳のまだ何も知らない少女からはじまり、ロミオと出会って最後は死を選ぶ、そこに至る感情を自分自身のものにできたらと思っています。
宮内:テクニック的なことももちろんそうですが、やはり今重視しているのは感情面です。若く浮ついていた青年が、ジュリエットに恋をして段々変わっていく。場面ごとに感情が移り変わっていくので、その変化をどこまで出していけるかというのが一番の課題です。
竹内:宮内さんとはパートナリングの技術面はもちろん、見せ方や演技面など、細かい部分までいろいろ相談しながらいいものにしていきたいと考えています。あとはお互い感情を出し切って、舞台上で本当に愛し合っている様を出せたら成功だと思っていて。そこに行き着けるよう、残りのリハーサルを一回一回大切に頑張ります。
——芸術監督からダンサーに期待すること、そしてお客さまへ伝えたいこととは?
久保:ダンサーのみんなはいろいろ思うこともあるだろうけど、舞台の上では全てを忘れて楽しんで欲しい。上手くいってもいかなくてもいい、悔いが残らないように踊ること、それしかないですね。お客さまには、フリードマン版の良さを知ってもらえたらと思っています。いろいろな版の『ロミオとジュリエット』がありますが、まずはフリードマン版『ロミオとジュリエット』の良さをニュートラルな気持ちで楽しんでもらえたら嬉しいですね。
<『ロミオとジュリエット』振付、マーティン・フリードマン氏に聞く、NBAバレエ団と作品の魅力>
フリードマン:これまで何度も『ロミオとジュリエット』の振付をしてきましたが、これほどよくこの作品を踊ってくれるバレエ団は初めてです。自分が作った作品でありながら、リハーサルのたびに興奮させられています。『ロミオとジュリエット』にはさまざまな版があるけれど、この作品はシェイクスピアの物語を忠実に描いているのが特徴です。音楽性も重視していて、それをダンサーひとりひとりが理解し、情熱を持って臨んでくれている。みなさんとても個性的で、私も非常に誇りを持っています。この『ロミオとジュリエット』は今ではもう私のものではなく、NBAバレエ団のものと言えるでしょう。
★ ☆ ★ 公 演 情 報 ★ ☆ ★
『ロミオとジュリエット』
2017年2月25日(土) 開場17:15・18:00開演
2017年2月26日(日) 開場13:15・14:00開演
会場:東京文化会館大ホール
チケット料金:
全席指定
SS席 : 12,000円 S席 : 10,000円 A席 : 8,000円
B席 : 6,000円
学生席:3,000円 ※学生券は小学生以上対象
主な出演者
ロミオ: ウラジーミル・シクリャローフ、宮内浩之
ジュリエット: 峰岸千晶、竹内碧
マキューシオ: 大森康正、高橋真之
ベンボリオ: 森田維央、清水勇志レイ
パリス: 米倉祐飛、森田維央
ティボルト: 三船元維、土橋冬夢
スペシャルゲスト: ウラジーミル・シクリャローフ
ゲストアーティスト: 有希九美、猪俣陽子、エリック・T・クロフォード、ジョン・ヘンリー・リード、西優一
指揮:冨田実里
管弦楽:ロイヤルチェンバーオーケストラ
芸術監督・演出:久保紘一
振付:マーティン・フリードマン
公演詳細はこちら⇒http://www.nbaballet.org/performance/2016/romeo/index.html
投稿日: 2017 年 2 月 18 日
カテゴリ: インタビュー