高瀬譜希子インタビュー(カンパニー・ウェイン・マクレガー)
~踊りに救われ飛躍する異才の現在/横浜バレエフェスティバル2016出演~
高瀬譜希子さんは英国ロイヤル・バレエ団常任振付家でもある鬼才ウェイン・マクレガーのカンパニーで活躍中です。プロとして活動するまでの軌跡やマクレガーとのクリエイション、『横浜バレエフェスティバル2016』で発表する新作について伺いました。
取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)
――踊りはじめた頃のことを教えてください。
ニューヨークに生まれました。両親はダンサーで母(高瀬多佳子)はローラ・ディーンやケイ・タケイさんの作品に出ていました。小さな頃から放課後に母が教えているところでレッスンをしていましたが私にダンスを習わせようというのではなく自由でした。でも母に反抗心があり強情だったので14歳くらいまでは踊りたいとは思っていませんでした。絵を描くのが好きだったのでデザイナーになりたかったということもあります。中学校ではダンス部に入りました。自分が一番上手いと思っていたのですが、部長・副部長にはなれませんでした。成績がずば抜けては良くなかったですし、リーダーシップの問題とかもあったとは思うのですが…。それで勉強も頑張ってコンクールに出ようと思いました。やりはじめたら競争心が出てきてコンクールにハマっていきました。
――モダンダンスのコンクールの競争はジュニア時代からし烈ですよね。
最初は母の振付でしたが2回目から自分で創りました。負けず嫌いなので順位にも創作にもこだわりました。コンクールの日にしか会えない友達もいたし、本番前の場当たりの緊張感が楽しかったです。
――進路はどうされましたか?
国立のダンスの学校がなかったので都立芸術高等学校の美術科で彫刻を学びました。2年生の時に文化庁の在外研修員としてオランダのロッテルダム・ダンス・アカデミーに1年間留学しました。帰国後高校に戻り1年間行きましたが、母が病気になるなど大変でダンスを辞めようかと途方に暮れました。そんな時、母に「秋田全国舞踊祭モダンダンスコンクールに応募しておいたから」と言われ、短期間で作品を創って踊りました。初めてシニアの部門に出たので、まさか入賞すると思ってはいなかったのですが第1位をいただきました。その時に「踊っていても悪くないんじゃないかなと」と思って、それからまた踊り始めました。踊りに救われました。もう一度文化庁の在外研修員としてロンドン・コンテンポラリー・ダンス・スクールに1年間留学し学び直しました。
――その後イギリスでプロ・ダンサーの道を歩まれます。
ロンドンを拠点とするヘンリ・オグイケ・ダンスカンパニーに入りました。ヘンリはウェールズとアフリカ系のハーフで、リズムとスピード感があって動きもダイナミックな作品を創ります。私の個性を活かしてくれましたが4年半いると学ぶことがなくなり壁にぶちあたりました。フリーランスになってからはラッセル・マリファント、アクラム・カーンらのクリエイションに携わったり写真とか映像とか映像関係の仕事をしたりしました。
――ウェイン・マクレガーのカンパニーに入られた経緯は?
ウェインの作品が好きで憧れていたというのはあります。それにレパートリーカンパニーではなく振付家の人と向き合って作品を創るところに入って自分が成長したかった。オーディション受けて最初は駄目でしたが再度オーディションに呼ばれ受かりました。
――カンパニーの構成はどうなっているのですか?
ダンサーは男女5人ずつの10人です。形としてはフリーランスでもやっていけるダンサーを雇っていますがプロジェクトが詰まっています。国籍は台湾、ポルトガル、スイス、イギリス、南アフリカ、ポーランド、日本です。
――クリエイションの流れを教えていただけますか?
クリエイション期間は10週間です。そのうち8週間はダンサーとウェインが対等の関係でコミュニケーションをとりながら動きを創っていきます。最初に大まかなテーマを話してくれた後、1日に課題が5、6個は出る。ダンサーが10人いるので膨大な数の振付ができます。それを最後の2週間で編集していく。音楽や舞台美術のアーティストは2年前に決まっていて、私たちが踊る曲を知るのは最後の2週間です。それまでは全然違う曲で踊って振りの空気を創る。プレミアの日はドキドキします。開幕直前になって動きが変わることもあり、「1週目にやった振付をみせて!」と言われたりもする。脳味噌がパンパンの状態になりますが、ダンサーの責任なので覚えていないといけません。
――マクレガーの創作の凄さはどこにあると思われますか?
作品を練る層の厚さです。彼が振り付けることもありますが課題を使って発展させ重ねていく。思考を重ねて問題を解決していくのがクリエイションで、一つひとつのステップに意味がある。複雑にできているからこそ何回みても別のものがみえてくるのだと思います。それに、どの作品でも人間味のあるところが好きです。テクニックばかりで忘れがちじゃないですか?でもウェインにはちゃんとある。また舞台をどうダイレクトするかという点で空間を活かすのが上手いですし、第一線のアーティストとコラボレーションしています。
高瀬譜希子さんご提供(左からウェイン・マクレガー氏、高瀬譜希子さん、トム・ヨーク氏)
――マクレガーの、しなやかで独特な動きの秘密はどこにあるのでしょうか?
彼自身にあるのではないでしょうか。人間技ではないようなボキャブラリーを持っています。それを人に伝えるのが上手ですね。「これは~だから」というインテンションがちゃんとあって、踊っている時に思考がみえる。ただ足を上げて、腕を上げてではなくて。メンバーは10人しかいないし、毎日過ごしていると癖とか似てきたりもしますね。
――何か特別なトレーニングをされていますか?
普段のクラスはバレエとコンテンポラリーです。胴体を使うことが多いので背中は柔らかくしておかないと危険なので皆ヨガとかピラティスとかジャイロとかをやっています。
――海外ツアーが多いそうですね。
5年目になりましたがヨーロッパだけでなくアジアやアメリカにも行きました。アメリカには毎年行っていますが数年前には7週間かけて各地を回りました。来年2月にはパリ・オペラ座のガルニエ宮で公演があり、オペラ座のエトワールらとコラボレーションした『Tree of Codes』(2015年)を上演します。
――同じ作品を何度も踊りますが、どうやってモチベーションを保っていますか?
大事なのは原点に戻ること。創った時にどういうインテンションがあったのかを気を付けています。意味があって動くのだから。
――『横浜バレエフェスティバル2016』出演に先立ってワークショップの講師も務められました。何をどのように教えたのですか?
振付を教えるのと、それから創作じゃないですけれど、想像力を養うトレーニングにつながるようなことをやりました。それぞれの癖を尊重しています。同じ動きをもらっても、みんな一緒じゃなくて「この人はこの人」というのを引き出せれば。
横浜バレエフェスティバル2016特別ワークショップより
――『横浜バレエフェスティバル2016』ではマクレガー作品ではなく、高瀬さんの新作ソロ『Measuring the Heavens』を発表します。和太鼓奏者の佐藤健作さんとの共演ですね。
ウェインの作品は基本的にアンサンブルなので抜き出してソロで踊る訳にはいかない。ガラ公演で上演するとすればデュエットとかになると思いますが、ウェインは自分でOKを出した人じゃないと踊らせないので、それも難しい。佐藤さんと組むことは芸術監督の遠藤康行さんから提案されました。テーマは重力です。古代ギリシャから重力が意識されていたと知って神の技じゃないかとか考えました。それを理解しようとし科学者の熱意を踊りにしてみたいなと。空を見上げ、時計と真剣に向き合い、自然の摂理を理論化した科学者達の功績に敬意を表し、相対性理論の計算式や中世のコスモス像から動きを作りました。
――今後の展望・目標をお話しください。
カンパニーの仕事が忙しくて自分のことをできる機会が少ないのですが空いている時に助成金を申請したりして活動しています。ソロが多いですがコラボレーションもやりたいと思います。ウェインからもっと学びたいですが、いずれは独立して振付家としてもやっていきたい。作品を創ってマイ・ワールドをシェアしていきたいです。3年間学んだ彫刻のスキルも振付に生かしていきたいですね。今回初演する『Measuring the Heavens』に関しても佐藤さんと遠藤さんと共に発展させていきたいと考えています。
[youtube http://www.youtube.com/watch?v=DpVfF4U75B8?rel=0&w=480&h=270]
『アトムス・フォー・ピースのミュージックビデオ”Ingenue”』
高瀬譜希子さんとトム・ヨーク氏
★ ☆ ★ 公 演 情 報 ★ ☆ ★
横浜バレエフェスティバル2016
~バレエの”力”が8.7に”かながわ”へ集結!
主催:株式会社ソイプランニング/神奈川県民ホール
後援:横浜アーツフェスティバル実行委員会
開催予定:2016年8月7日(日) 神奈川県民ホール
18:00開演 20:45頃終演予定
芸術監督:遠藤康行(元フランス国立マルセイユ・バレエ団 ソリスト/振付家)
プロデューサー:吉田智大
★ ☆ ★【上演予定作品】★ ☆ ★
◆【第1部】(フレッシャーズガラ)
■クラシックバレエ作品のヴァリエーション (オーデイション合格者2名)
中島耀(シンフォニーバレエスタジオ)
「眠れる森の美女」第1幕よりオーロラ姫のヴァリエーション
縄田花怜(梨木バレエスタジオ)
「パキータ」よりエトワールのヴァリエーション
■エスメラルダのヴァリエーション
みこ・フォガティ
■「ラ・シルフィード」よりパ・ド・ドゥ
菅井円加(ハンブルク・バレエ団)
二山治雄(白鳥バレエ学園)
◆【第2部】 World Premium 1
■新作「Measuring the Heavens」振付:高瀬譜希子
高瀬譜希子
演奏:佐藤健作
■「ライモンダ」第1幕より夢のパ・ド・ドゥ ヌレエフ版
米山実加 (ボルドー・オペラ座バレエ団)
高岸直樹(元東京バレエ団)
■新作「SOLO²」 振付:遠藤康行
みこ・フォガティ
二山治雄(白鳥バレエ学園)
■瀕死の白鳥
倉永美沙(ボストン・バレエ団)
■Lilly 振付:+81
柳本雅寛(コンテンポラリーダンサー・ +81主宰)
青木尚哉(ダンサー・振付家)
◆【第3部】 World Premium 2
■新作「埋火 UZUMIBI」 振付:遠藤康行
米沢唯(新国立劇場バレエ団)
遠藤康行(元フランス国立マルセイユ・バレエ団 ソリスト・ 振付家)
■ヴァスラフよりソロ 振付: ジョン・ノイマイヤー
菅井円加(ハンブルク・バレエ団)
■「エスメラルダ」よりダイアナとアクティオンのグラン・パ・ド・ドゥ
近藤亜香(オーストラリア・バレエ団)
チェンウ・グオ(オーストラリア・バレエ団)
■ロミオとジュリエットより死のパ・ド・ドゥ 振付:アンジェラン・プレルジョカージュ
津川友利江(バレエ・プレルジョカージュ)
バティスト・コワシュー(バレエ・プレルジョカージュ)
■「くるみ割り人形」第2幕より金平糖の精と王子のグラン・パ・ド・ドゥ
倉永美沙(ボストン・バレエ団)
清水健太(ロサンゼルス・バレエ団)
*演目は都合により変更となる場合がございます
横浜バレエフェスティバル詳細はこちら⇒ http://yokohamaballetfes.com/
投稿日: 2016 年 8 月 1 日
カテゴリ: インタビュー