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PICK UP!

キミホ・ハルバート(ダンサー/振付家)インタビュー
~気鋭振付家が語る創作の軌跡と展望~

内外で活発に振付作品を発表されているキミホ・ハルバートさん。オペラや商業舞台、映画、PVの振付も手がけ、各地で講習会を行うなど幅広く活躍中です。これまでの創作や2015年3月14日のユニット・キミホVol.4への思い、今後の目標をお伺いしました。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)

 

photo:Yusuke Masuda
photo:Yusuke Masuda

振付を始めた頃の様子を教えてください。
17歳でベルギーに留学した時に、同級生のコンテンポラリー作品に出て、コンテンポラリーも面白いと感じるようになりました。学生たちで振付をする機会があり、コンテンポラリー作品が多かったことから、私がバレエの作品を創ることになりました。サティの「ジムノペディ」を使って男女3カップルが踊りました。それが初作品です。母(岸辺光代)が主宰する岸辺バレエスタジオでも子供たちのコンクール用のヴァリエーションや群舞を創り始めました。父(アンソニー・ハルバート、故人)が振付をしていたので興味はありましたが、まさか自分が振付家になるとは思っていませんでした。

2年間アメリカで踊られた後、新国立劇場バレエ団に契約ダンサーとして入団します。その2年後に登録ダンサーとなり活動の場を広げました。
公演へ出演するほかに、岸辺バレエの外部公演のために『Obrigado』(1996年)を創りました。ポルトガルの唄や当時流行っていたEnyaの曲を使いました。振付家として知っていただけるようになったのは『Nutella』(1998年)くらいからですね。ロープを張って洗濯物を干して……。12人くらいの女子だけで創った作品です。バッハの「G線上のアリア」で始まり現代音楽も使いました。その頃は、ダンサーたちと同世代で一人ひとりを知っていることもあり、それぞれの性格や個性を活かした作品になりました。バレエでは「役」を演じることが多いのですが、その作品では「自分」で立たなければならない。皆さん、そのチャレンジに楽しんで取り組んでくれました。今でも人気が高く再演している作品です。

『INBETWEEN REALITIES』 photo:Yusuke Masuda
『INBETWEEN REALITIES』 photo:Yusuke Masuda

2001年にユニット・キミホを結成した経緯は?
青山劇場・青山円形劇場の事業本部長だった高谷静治さん(故人)が「ダンスノエル」という公演を企画され、初回(2001年)に誘っていただきました。「仲間を集めて作品を創るように」と。出演は宮内真理子さん、島田衣子さん、青木尚哉さん、作間草さん、森田真希さん、白石貴之さんと私。ユニット・キミホの名付け親は高谷さんです。自分の名前を付けるのは恥ずかしかったのですが、高谷さんがあってこそ続いているので、変えずに大事にしています。

その時に発表されたのは?
『T.C.B.Y.』という作品です。9・11で亡くなった友人のために創りました。彼女はビルに突っ込んだ飛行機に乗っていたのです。テレビでその風景を見ていましたが、映画を見ているような感覚でリアルに感じられない。切ないなと思いました。友人はお腹の中に命を授かっていたこともあり、胎内のイメージや砂嵐(スノーノイズ)の映像も使いました。

『SKIN TO SKIN』 photo:Yusuke Masuda
『SKIN TO SKIN』 photo:Yusuke Masuda

間をおかず精力的に作品発表されます。その頃を振り返っての思い出は?
その頃は若く、悩んで、自分の居場所を探していました。まだ踊りたい時期でしたし、バレエ団にも所属していない。どこに存在したらいいのかと。私はベルギー生まれのイギリス人で国籍はイギリスと日本の半分ずつです。どこに行っても自分の居場所を感じられない。。。根っこがほしかったのに見つからず苦労したことが、作品を創る原動力になっていたのかもしれません。

創作の際に心がけていることは?
音楽が第一にきます。身体は楽器です。音楽的じゃないものは身体に合いません。『White as Snow, As Red as an Apple』(2006年)では、初めて物語をやってみようと思って「白雪姫」にしました。私は物語が好きですし、そうではないものも好きです。日本ではバレエとコンテンポラリーダンスが分かれていますが、表現の仕方が違うだけなので、自分では線を引きたくありません。

『Garden of Visions』 photo:Yusuke Masuda
『Garden of Visions』 photo:Yusuke Masuda

ユニット・キミホ作品を中心に自作のほとんどに出演されていますね。
自作の場合、自分が踊らないと創りにくいんです。ダンサーとして彼らの中にいると、皆の気持ちが分かる。私はダンサーに自分のコピーでいてほしくないし「仲間と創る」スタイルは変わりません。彼らが出してくるものを見て、自分のアイデアとは違っていても面白いと思えば採用します。全然違う考え方の人や素材、エネルギーが入るのは良い刺激です。

2007年にユニット・キミホVol.1『GARDEN OF VISIONS』を行いました。
「お金が貯まったら公演をやるぞ!」と思っていました。良いダンサーとたくさん出会ったので、それぞれがメインになれる作品、自分がユニットで創り貯めてきた作品を選び、最後に新作を入れました。創り始めた頃は悩んでネガティブな作品もあったのですが、このあたりの作品はポジティブというか落ちついて観られると思います。

『MANON』 photo:Yusuke Masuda
『MANON』 photo:Yusuke Masuda

Vol.2『White Fields』(2009年)のお話は後で伺います。Vol.3『MANON』(2012年)はアベ・プレヴォーの小説を原作としており物語性が強くエモーショナルでした。
新国立劇場バレエ団でケネス・マクミラン版に出演しました。素敵でしたが、私の中では話が分かりにくい部分もあったので、自分でも創ってみたかった。原作になるべく近づけてみました。オリジナルの音楽を使いたいと思っていたところ小瀬村晶さんに出会いました。小瀬村さんの音楽は人を幸せにする穏やかな印象があったので、私の求めるマノンのドロドロとした世界にチャレンジしていただくため何度もやり取りをしました。テーマ曲は凄く素敵で、それを活かすためには「その前にドロドロが必要なの!」と。マノンの心情を演じるのは女として難しいです。ファム・ファタールという捉えどころのない女性像を作り出すのに苦労しました。

『MANON』 photo:Yusuke Masuda 2
『MANON』 photo:Yusuke Masuda

2012年秋には新国立劇場主催公演で『Beauties and Beasts』を発表しました。
父が母に振り付けた『美女と野獣』というデュオを私も踊ったことがあり、凄く好きだったので、自分もいつか同じラヴェルの曲で作品を創りたいと願っていました。劇場の方から「抽象的だけれどお客様に分かりやすいものを」という新作の依頼をいただき、「美女と野獣」を創ることにしました。「美女と野獣」といっても題名は『Beauties and Beasts』で、両方にSが付いている。全員が美女で全員が野獣。ストーリーラインはキープしながら、登場人物全員の心に「美しさ」と「みにくさ」の2つの世界があることを作品にしました。

『Beauties and Beasts』 photo:Yusuke Masuda
『Beauties and Beasts』 photo:Yusuke Masuda

2015年3月14日に行われるVol.4ではイーゴリ・ストラヴィンスキー作曲「春の祭典」に振り付けた新作『Le Sacre du Printemps』を発表します。
高谷さんが亡くなられる3、4か月前に「次は『春の祭典』に挑戦してみたら」とアドバイスをいただいたことがずっと頭にあったのと、青山劇場が閉まるので一度自分の公演をやりたいと思いました。結局スケジュールが合わず青山ではできなくなったのですが。私はピナ・バウシュの『春の祭典』が好きでビデオが擦り切れるくらい観ています。偉大な振付家たちをリスペクトしながら自分の感じるままに創っています。キミホ・テイストを出せればと格闘中です。

同時にVol.2で上演した『White Fields』を再演します。
「トヨタ コレオグラフィーアワード2010」でオーディエンス賞を頂いてから再演できていないこともあり上演します。『Le Sacre du Printemps』では激しく動きますが、こちらの動きは穏やかです。リメイクというかキャストも変わっていますので、また違った『White Fields』をお見せできると思います。震災の前に創った作品ですが、自然の被害にあったらというのが元々のテーマでした。なんだかわからない白いものが降ってくる。それはなんだろうな、というところから始まっています。

『White Fields』 photo:Yusuke Masuda
『White Fields』 photo:Yusuke Masuda

リハーサルに入って手ごたえは?
最初からいるメンバーは14年目なので年齢を重ねているんですね。この先、今の形では続けられないと思うので、今の私たちの肉体、私たちの背負ってきたものを感じながら楽しみたい。人間は年を重ねて変わっていくことが素敵だと思います。これまでのメンバーにプラスして若いパワーも入っています。幅広い年代の方にご覧いただきたいです。

『White Fields』 photo:Yusuke Masuda 2
『White Fields』  photo:Yusuke Masuda

ぜひお伺いしておきたいことがあります。若いダンサーと接する機会も多いと思いますが、新しい世代から受ける印象はどのようなものですか?
今の子たちはコンテンポラリーに挑戦する意識を積極的に持っています。オープンで教えているクラスには全国各地からたくさんの子が来ます。レギュラーで4、5年続けている子もいて、凄く積極的だなと。でも個性がなかなか出ない。皆さん一人ひとり魅力的で素敵なのに、遠慮しているように感じます。私たちの世代はワルガキがたくさんいました(笑)。女性でいえば、髙部尚子さんや渡部美咲さんは身体からにじみ出る音楽性とかがすばらしい。酒井はなさんも凄いと思います。コンテンポラリーにも挑戦しながらスターのオーラもある。そういう人がなかなか出てこない。若い子には頑張ってほしい。「その空間に存在しようと意識して」「私は、ここにいますよと、しっかり訴えなさい」と、いつもクラスで言っています。

そういえば以前、コンテンポラリーを踊るようになって、クラシック・バレエも踊り易くなったという話をお聞きしました。もう少し詳しく教えていただけますか。
クラシック・バレエだけを踊っていた時代は130%の力で頑張っていました。でも上手にできないし体力も続かず空回りしてしまう。コンテンポラリーをやるようになって、余分な力を抜いたり、空間や隣の人を感じたりできるようになりました。30歳を過ぎてからバレエを楽に踊れるようになり、失敗もあまりしなくなって良い方に向かいました。生徒には「バレエが上手になりたければコンテンポラリーのクラスに通いなさい」と言っています。バレエの道に進めない場合のオプションにもなります。オープンクラスでは11歳以上、短いワークショップ講習会では、もう少し下から教えています。

『Giselle act1』 photo:TES
『Giselle act1』  photo:STAFF TES

最後に将来の目標をお聞かせください。
先日「Aoyama Ballet Festival-Last Show-」の際にNoism(りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館専属舞踊団)芸術監督・金森穣さんとお話しました。金森さんはNoismのようなカンパニーを増やしたいとおっしゃっていました。プロとして就職するためには海外に行くしかないという現状は変わっていません。自分にできるか分かりませんが、各地で色々な振付家が市や国のサポートを受けられる場を増やし、日本にいるダンサーに踊れる場を作っていきたいです。

 

★☆★ 公 演 情 報 ★☆★

UNIT KIMIHO 公演 Vol.4
“Le Sacre du Printemps” 春の祭典(初演)
ストラビンスキーの「春の祭典」からは、雷鳴や水の飛沫、飛び散るマグマの音が聴こえる。
さらに、世界を構成する粒子の存在やその関係性までもが目に飛び込んでくる。粒子は共存し、時に爆発して個々の粒子としても存在する。
地球の圧倒的なエネルギーから飛躍するために空は叫び、水は上昇し、地面は唸る。
これらは地球に損傷をもたらすが、神が人間にメッセージを発信していると考えることもできる。
自然、動物、人間、この地球に存在するすべてを構成している粒子の躍動の元を辿り、記憶を呼び起こす。
とめどなく溢れ出したエネルギーの行き着く先は…

【演出・振付】キミホ・ハルバート
【音楽】I. Stravinsky
【出演】浅見紘子 小野麻里子 菊池いつか 作間草 高園百合香 キミホ・ハルバート 森田真希
穴井豪 五十嵐耕司 上野天志 佐藤洋介 髙比良洋 守屋隆生 横山翼
荒俣夏美 小川しおり 加藤花鈴 小岩井香里 後藤いずみ 島田真奈 鈴木絢香 鷹野梨恵子
豊永洵子 名木田弓音 野瀬山瑞希 藤田菜美 星野琴美 水嶋理子 紫歩 松尾泉
中込美加恵 原田真歩

 

“White Fields” (2009) -Refined
潔白、、透明、、、静けさ、、、、終わりと始まり。
私達はすべて、色づくことなく透明で純粋に生まれてきたが、生命の道を歩みながら、いろんな色を身につけていく。
私はその透明な部分が残っていると信じている。人に対する思いやり、自然に対する思いやり。
木はそれだけで生きているのではなく、 太陽、水、土、そして、空と接して存在している。そのひとつでも欠けたら、木は存在しない。
私達は、自然と共に、そして互いに繋がりを持ちながら生きている。

【演出・振付】キミホ・ハルバート
【音楽】A. Pärt 小瀬村晶 J. S. Bach Mono & World’s End Girlfriend
【出演】菊池いつか 作間草 キミホ・ハルバート 森田真希
穴井豪 上野天志 佐藤洋介 芝崎健太 石橋和也

※都合により出演者が変更になる場合があります。予めご了承お願いします。

 

2015.3.14(土) 14:00/17:30 新宿文化センター 大ホール
【チケット】全席指定 前売 5,000円 当日 5,500円
【お問合せ・お申込み】Dance in Deed!
TEL:090-4429-5747  FAX: 03-3227-0279
E-mail:ticket.kimiho@gmail.com

※未就学児童のご入場は、ご遠慮ください。
※上演順未定。演出の都合により、開演時間をすぎますとしばらくの間ご入場をお待ちいただく場合があります。

チケット取り扱いプレイガイド等はホームページをご覧ください。
http://www.kimiho.org/Kimiho_HOMPAGE_2011/2015_Le_Sacre_du_Printemps.html

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