貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル25」プレビュー
地域に根差した質の高い活動
政治・経済などと同様に舞台芸術の世界でも首都圏一極集中著しいといわれ久しい。そんななか地域に根付いて活動し、世界を見据えた質の高い上演活動を行なうバレエ団がある。神戸の貞松・浜田バレエ団だ。
貞松融と浜田蓉子が1965年に結成。一躍脚光を浴び、世界のバレエ界とつながるのが1982年。貞松・浜田の子息であり芸術面で主導的地位にいる貞松正一郎のローザンヌ賞(スカラシップ)受賞である。正一郎は堀内元・充兄弟らとともに今日の男性バレエ・ダンサー隆盛の先駆的存在となった。英国ロイヤル・バレエ・スクール留学時には巨匠イリ・キリアンらの作品を踊り、同級生に香港を拠点に活躍する世界的振付家ユーリ・ンがいる。“バレエの申し子”と称されるゆえんである。
創作への熱い意欲、世界水準のレパートリー導入
24回続く「創作リサイタル」は当初団員の創作が中心だった。“「芸術とは創造することであって、真似ることではない」という原点に立って、今!生きている皆様と私たちが舞台を通して今の時間を共有したい!と願っての公演”。近年は内外の巨匠や気鋭の作品提供が相次ぎ充実度を増している。キリアンやオハッド・ナハリン、ティエリー・マランダイン(パリ・オペラ座バレエ団に作品提供)、ユーリ・ン、同バレエ団OBでドイツのシアター・レーゲンスブルク・タンツ芸術監督を務める注目の気鋭・森優貴らの作品を上演。今春の東京・新国立劇場地域招聘公演でもキリアン/ナハリン/森の作品を上演して好評を得た。
日本では欧米と異なりバレエ団のレパートリーの比重は圧倒的に古典寄りである。貞松・浜田バレエ団は継続的にコンテンポラリー・バレエに挑み、クラシック・バレエとは違った体使いにも対応できる。古典作品/現代作品をともに高い水準で踊りこなすカンパニーは、そう多くない。世界水準で語り得る、わが国トップ級のバレエ団として評価が高まる。
「創作リサイタル25」のみどころ
今年の「創作リサイタル25」では2作品を上演する。
ひとつは稲尾芳文『The Last Bird』(D・ラング曲ほか)。稲尾はイスラエルの鬼才ナハリン率いるバットシェバ舞踊団で活躍し現在はノルウエーを拠点に活動。金森穣のNoism1&2に招かれ3度作品提供している。貞松・浜田バレエ団とは近しく、ナハリン作品上演のたびに指導に入っている。「創作リサイタル16」では『スキングラフト』を振り付け。新作のため、どんな作品に仕上がるのか予測がつかない。けれどもNoismにて発表した稲尾作品から鑑みるにストーリーを語ったり、具体的な意味を見出せるものではないだろう。観るもののイマジネーションを喚起する独特で深い世界観を示すのではないか。期待したい。
もうひとつは『カルミナ・ブラーナ』(カール・オルフ作曲)。「創作リサイタル11」にて初演された。1995年の阪神・淡路大震災で被災後、いち早くバレエ芸術を通しての復興支援に心血を注いだカンパニーによる人間賛歌だ。振付を正一郎、ベテランの長尾良子に加え、新たにオランダのイントロ・ダンスで著名振付家のレパートリーを踊ってきた実力者・堤悠輔、東京新聞制定・中川鋭之助賞を受賞し「全国区」になりつつあるバレリーナで小品の創作経験がある瀬島五月が手がける。団員総出演の熱のこもった舞台が観られそう。
「ドン・キホーテ」にも注目!
なお10月には『ドン・キホーテ』全幕を上演。主演は瀬島五月とアンドリュー・エルフィンストン。脂の乗っている瀬島が主役キトリを踊る。彼女の華やかさ・艶やかさと抜群の表現力が発揮されるだろう。初演の地・ボリショイ劇場の流れを汲み、演劇性の高いニコライ・フョードロフの演出・振付をもとに正一郎が新たに指導・演出する。活気あふれ楽しく、それでいて古典美を感じさせる舞台になるだろう。あわせて注目したい。
文:高橋森彦(舞踊評論家)
写真提供:貞松・浜田バレエ団
★☆★ 公演情報 ☆★☆
創作リサイタル25
2013年9月6日(金) 開演18:30
会場 : 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
料金 S席¥5000/A席¥4000/B席¥2000
ドン・キホーテ [全幕]
2013年10月13日(日) 開演17:00
会場 : あましんアルカイックホール料金
SS席¥7000/S席¥6000/ A席¥5000/B席¥4000/C席¥2000
投稿日: 2013 年 8 月 26 日
カテゴリ: 公演プレビュー(レビュー)