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第24回(2013年) 清里フィールドバレエ The Field Ballet 『ジゼル』全幕 速報レポート

大自然の下で過ごす夢のようなひととき――。山梨県・清里高原のリゾート施設「萌木の村」にて行われる「清里フィールドバレエ」は今年で24回目。清里の夏の風物詩として名高く全国紙等でも大きく報じられる。ご存じの方も少なくないだろう。

清里は八ヶ岳南麓、標高1,200メートルの高地に位置する。涼しく快適。避暑地として知られる。夕闇せまると、「萌木の村」の広場には、近隣のホテルやペンションに宿泊している観光客や近隣住民が続々と集う。20時になると特設舞台においてバレエがはじまる。

四半世紀近くの歴史を誇る「清里フィールドバレエ」は、制作の舩木上次(「萌木の村」代表)と八王子でバレエシャンブルウエストを主宰する今村博明・川口ゆり子夫妻の出会いに端を発する。未開の地・清里を切り拓いたポール・ラッシュ神父の精神を受け継ぎ清里を活性化してきた舩木と、八王子を拠点にユースバレエとして出発し、わが国有数のバレエカンパニーへと成長させた川口・今村。彼らの情熱の結晶にほかならない。

今年の演目はロマンティック・バレエの名作『ジゼル』全幕。例年2週間ほどの会期中3つ程度の演目を日替わり上演するが今回は1本に絞った。「The Field Ballet」と銘打ったのも、このたびの特徴だ。つねに創意工夫し前進してきた「清里フィールドバレエ」。より究極の舞台を目指す決意のあらわれと見た。果たしてその挑戦の成果はいかに――。

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第一幕。序曲が暗闇に響きわたるなか、舞台上手・下手脇、客席側から村人たちがあらわれる。これまでなかったアクティング・エリアが張り出しており、そこから舞台に上がる。照明が入ると、舞台奥には木々が生い茂り絶好のロケーション。下手にジゼルの家、上手にアルブレヒトの家が設営されている。手抜き無しの本格舞台ということが一目瞭然だ。

今回主役は4組。初見した日にはスペシャルゲストの下村由理恵が登場した。上演前に「日本を代表するプリマ・バレリーナ」という風なアナウンスがなされたが、下村にとってジゼルは当たり役のひとつ。「清里フィールドバレエ」初登場ながら期待が高まる。

下村の踊りの、なんと初々しいこと!第一幕では、病弱だけれども踊りが好きで身分を偽わっている貴族の青年アルブレヒトを愛する一途な思いを巧みに表わす。軽やかなステップ運びもさることながら、その場その場で生起する感情を大切にし、役を生き抜く。

下村のジゼルが大きな感動を呼ぶのは、踊りに踊りこんでいても、つねに新鮮な気持ちを抱いて役に取り組んでいるからだろう。アルブレヒトの不義を知り、狂ってしまう場での演技も、大仰なところはいささかもないのに、観るものをおのずと引きこむ。愛する人との楽しかった時を思い、やがて息絶える場では、感情の揺らぎが痛切に感じられる。

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第二幕、ウィリになってからは精霊そのものとなる。野外に浮かびあがる幽玄な真夜中の森にたたずむ下村のジゼルは、はかなくも美しい。繊細極まりないポワント・ワークや、ふわりと宙に浮く跳躍の数々は見事のひと言。が、それを感じさせずドラマの流れと音楽に溶けあわせる。テクニックをテクニックと感じさせずにドラマを紡ぐ名演だった。

アルブレヒトの江本拓(新国立劇場バレエ団)も感性豊かな踊り手、大ベテランの下村と組み、第二幕のパ・ド・ドゥなどで分かち難いパートナーシップを見せた。ウィリの女王ミルタに責め立てられ踊る際の、飛びながら行う跳躍や両足を交差しながら行うジャンプなど凄絶かつ美しい。ここでもジゼルへの献身の思いが、ひしと伝わってくる。

ヒラリオンの正木亮の、無骨だが憎めない演技も心に残る。王子役としてバレエ界の頂点を極めた逸見智彦が、アルブレヒトの従者ウィルフリートに扮して舞台に厚みをもたらした。第一幕の村人たちのアンサンブルは生きいきとし、第二幕のウィリたちの群舞を踊るのはバレエシャンブルウエストの女性団員。フォーメーションが揃って一体感がある。

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「The」と強調するだけに、これまでにない仕掛けも満載だ。前述したように舞台の前面の下手・上手を張り出し、そこからの出入りも増やして奥行きが生まれた。村人の収穫祭の場では、打ち上げ花火が盛大に打ち上げられる!ウィリたちは舞台奥から、さながら地の底から這いあがってくるかのようにあらわれ、消えていく――。古典の品位を保ちつつ見どころの多い演出も増やし、多くのお客さんに楽しんでもらえる舞台づくりが際立った。

年月を重ね研究し尽くしてきた玄妙としかいえない照明も特筆だが、野外での上演のため毎晩状況は異なる。この日は最高のフィールドバレエ日和であり星空も見える晴天。そうでなくても、その時々の気象状況それに観客の反応によって舞台の空気は変わる。そう、「清里フィールドバレエ」は、劇場で上演されるバレエとは趣を大きく異にする。大自然と溶けあう一期一会の舞台は、舩木が掲げるように「ここだけ」でしか体感できないのだ。

その魅力を百万言費やしても語り尽くせぬ非力を感じる。百聞は一見に如かず。とにもかくにも実際に現地に足を運び「感じて」いただきたい。自然の息吹を。美しいバレエを。人の温かさを。他では味わえない真の感動を、ひとりでも多くの方とシェアしたい!

(2013年8月2日 清里高原 萌木の村 特設野外劇場)

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