松山バレエ団 新「白鳥の湖」全4幕

【PICKUPについて】

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井上バレエ団「アネックスシアター 次世代への架け橋 vol.2」リハーサル取材

クラシック・バレエをベースに新たなスタイルを取り入れた独自の舞台を

今年で創立45周年を迎える井上バレエ団は、長年にわたって独自の個性を発揮し、日本バレエ界において確固たる存在感を示している。創設者の故・井上博文の時代から、いち早く海外の一流アーティスト/スタッフとの協同作業を重ね、独自の美学あふれる舞台を創りあげてきた。世界的に著名なピーター・ファーマーのデザインによる舞台装置を導入した古典全幕バレエには定評がある。シックで重厚な雰囲気があり、夢あふれる世界へと誘ってくれる。

創作にも積極的だ。内外の振付家の作品を取り上げ、創設者の井上博文の在世中には、なんと日本舞踊や暗黒舞踏とコラボレーションを行なっていたこともあるほど!

昨年から始まったのが「アネックスシアター 次世代への架け橋」。きたる3月23日(土)に行なわれるvol.2に際して“クラシックバレエを土台とし、新しいスタイルも取り入れて、井上バレエ団ならではの色合いを持つ舞台を作り上げ、見ていただきたい”と抱負を述べている(チラシより)。

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3月半ば、公演まで10日を切りラストスパートに入った稽古場を取材した。折よく本番同様衣装を着用し通して上演するスタッフ総見を観ることができた。

今回上演されるのは4作品。団付き、あるいは縁の深い振付者による作品ばかりだ。

「思い」をコンテンポラリーな感覚で訴える――
『It’s a Fine Day』

最初は鶴見未穂子が振り付けた新作『It’s a Fine Day』。鶴見は指導者としてバレエ団に欠かせない存在であるとともに現役の踊り手でもある。

舞台奥にはテレビモニター。周囲に何脚かの椅子が置かれている。女性6人と男性2人が踊る。衣裳は普段着に近いようなカジュアルなもの。黒のダンスシューズを履いている。ジェーン「It’s a Fine Day」の、物悲しくも澄んだ歌声が印象的。高村明日賀&安齋毅、菅野やよひ&荒井成也が、それぞれ絡む場面を中心に、ダンサーたちはクラシック・バレエにとらわれない自在な動きを繰り広げていく。

指を鳴らしたり、うつぶせになる景も。

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両手で何かを抱える、こぼれ落ちそうなものを守ろうとしているような仕草が目に焼き付く。

構成や曲を詰める箇所があるというが、われわれの周りにある「大切なもの」とは何かを考え創作したという。その「思い」を観るものは、どう受けとめたらよいのだろうか。ダンサーたちはコンテンポラリーなスタイルに対応し、鶴見の思い描き伝えたいメッセージを体現しようと懸命に取り組んでいるようだ。本番を楽しみにしたい。

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ちなみに鶴見はコンテンポラリー・ダンス シーンをリードする振付家・矢内原美邦のニブロールの初期に出演していたという知る人ぞ知る強者でもある。余談ながらコンテンポラリー・ダンス/舞踏の世界の実力者・山崎広太も大昔に井上バレエ団に通っており、現在主役を踊り日本を代表するプリマのひとりである。島田衣子は山崎作品に出演していたこともある。自由で開放的な気風が井上バレエ団にあるという証ではないだろうか。

荘重な響きの聖歌に気鋭が挑む――
『スターバト・マーテル』

2番目は石井竜一が振り付けた『スターバト・マーテル』。石井は谷桃子バレエ団で主役を務めたのちフリーランスで幅広く活躍。振り付けも手掛け実績を重ねている気鋭だ。

今回の作品は昨年とある発表会のために創ったものに手を加えての再演だという。バロック時代の作曲家で古典派の先がけともいわれるジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ(1710~1736年)の代表作「スターバト・マーテル」に振り付けている。

田川裕梨、源小織、秋吉秀美、加藤健一、安齋毅、武石光嗣が出演。女性はトウシューズを履いている。男女カップル×3の組み合わせを中心にソロ、デュオ、トリオ等を織り交ぜ、荘重な聖歌の曲調を汲んだ踊りを繰り広げる。

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哀調を帯びながらも天上的な美しさ、高揚感を感じさせる音楽と分かち難く結びついたダンスが、ずっしりと心に響く。クラシカルで端正な良さも残しつつ密度濃く変化に富んだ動きの妙。音楽との親和性。

緻密な作舞と構成力を持ち味とする石井の力量がここでも発揮されていると感じた。

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再演重ねる異色のおもしろさあふれる佳品――
『5 vs 5』

3番目は堀登の振り付けによる『5 vs 5』。堀は日本バレエ界屈指の演技派ダンサーと称されるベテラン。井上バレエ団公演でも『くるみ割人形』ドロッセルマイヤー役などでおなじみだ。振付者としては『RUN』『弦楽セレナード』などの好評作がある。

冒頭、下手には白の、上手には黒のサスペンダー付きパンツを着た女性5人ずつが縦に並んでいる。かたわらには、それぞれ赤い椅子。音楽はパトリス・ルコント監督の「タンゴ」(1993年)に使われたムーディーな曲(アンジェリーク&ジャン=クロード・ナション)。多彩にフォーメーションを変えながら白・黒の集団がすれ違ったり、混じりあったりしていく……。

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宮嵜万央里と高村明日賀の丁々発止のやりとりから互いに手を組んでタンゴ風の踊りになったりする場面など、予想のつかない展開のつるべうち。スリリングで飽きさせない。10人の女たちは全身からそこはかとなく大人っぽさをふりまく。目線もクールにキメる場も。

初演は1996年。井上バレエ学園発表会にて初演され好評を博した。各所で上演され9回目の再演になる。何度見ても楽しい作品。清楚可憐・優美さを重んじるクラシック作品では見られないバレリーナたちの貴重な?表情を観られる機会になりそう。

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ビゼーの協奏曲を典雅に、いきいきと――
『風のコンチェルト』

最後は芸術監督・関直人がビゼーの交響曲第1番に振り付けた『風のコンチェルト』。ビゼー17歳のときに書かれ、みずみずしい感性が反映されている名曲だ。20世紀バレエの巨匠のひとりジョージ・バランシンが『シンフォニー・イン・C(『水晶宮』)』を振り付けたことでも知られよう。

関は戦後間もなく『白鳥の湖』日本初演を観てバレエを志し、当時全盛を誇った小牧バレエ団の第一舞踊手として活躍した。振付者としても名を成した大御所だ。関作品の魅力は、なんといっても抜群の音楽性にある。音楽との調和が絶妙であり観ていて心地よい。

『風のコンチェルト』は1998年初演。女性21人、男性4人が出演している。第一楽章はテンポよく華やか。ソロの西川知佳子が軽快に踊って小気味よい。第二楽章は近年プリマ役を務める宮嵜が、いぶし銀のノーブル・ダンサー中尾充宏と組んだアダージョがみどころ。典雅な響きにあわせてのリフトも軽やかで音楽と動きが一体化している。

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第三楽章では小高絵美子が綺麗なシェネ(両脚先を使っての回転)をみせた。第四楽章はソリストが入れ代わり立ち代わり踊り継ぎ、群舞も大団円を盛り上げる。

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衣裳は色とりどりの薄いシフォンのような質感。スピーディーに舞台を駆け抜けていくダンサーたちは、さながら一陣の風のようだ。音楽そのものになりきっている。

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ダンサーを、振付家を育て、観客と出会う場を目指して

公演監督であり公益社団法人日本バレエ協会副会長の重責にある岡本佳津子によると「アネックスシアター 次世代への架け橋」を始めたきっかけは「ダンサーを育てたい」という一念からだった。アンサンブルにいる才能ある人を生かしたい。クラシック・バレエを踊っている人に、きちんと伸びやかに踊ることを大切にしつつ「もっと体を使って表現してほしい」という思いが込められているようだ。ダンサーは舞台で成長する。

井上バレエ団で受け継がれる作品を世に問う場でもある。「ダンサーが違うと味は変わってくる」そう岡本や制作を統括する諸角佳津美は話す。いっぽう、堀や石井や鶴見のようにバレエ団ことをよく知っている新たな世代の振付家に団員の個性を活かした作品を創ってもらいたいと考えてもいるようだ。

わが国では創作バレエ公演の動員は難しい。

岡本はこう語った。観客の反応なしに踊っても仕方ないと。舞台と客席が出会って成立する。そういう場所を増やしたいと。定評ある作品を新世代が踊って魅力を輝かせ、若く志気の高い踊り手と気鋭の振付者が正面から向き合ってコラボレーションする――。その熱を客席から肌で感じとりフィードバックすることが、日本のバレエを、舞台芸術を発展させることにつながるのではないか。

井上バレエ団の意欲的な試み

「アネックスシアター 次世代への架け橋」に注目したい。

 

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)

写真:バレエナビ 橋本

取材場所:井上バレエ団スタジオ

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