【PICKUPについて】

このコーナーはバレエナビが取材させて頂いたホットな話題を取り上げております。
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PICK UP!

「ディアギレフの夕べ」への期待と、芸術監督・ 久保紘一に聞く新生NBAバレエ団の挑戦

所沢という地名を聞いて何を思い浮かべるだろうか?

埼玉県南西部に位置するベッドタウンであり人口およそ34万人。プロ野球の埼玉西武ライオンズの本拠地なのは有名だ。宮崎アニメ「となりのトトロ」の舞台となった丘陵が広がり自然豊かなことでも知られる。

そんな所沢を拠点にしているのがNBAバレエ団。わが国の求心的な舞踊家たちが協同するカンパニーとして1993年に設立された。以後、バレエ史上に残る名作の復刻・復元を手がけるなどユニークな活動を展開している。

アグレッシブな新芸術監督・久保紘一
今回その拠点を訪れた。西武新宿線新所沢駅から徒歩15分。2004年に落成し広さ230坪760㎡。大小ふたつの稽古場のほか衣装室や事務室、応接室などを備えている。まず団員によるクラスレッスンを観覧した。担当は久保紘一。16歳のとき「モスクワ国際バレエコンクール」で最高位の成績を収めたのち米・コロラド・バレエ団のプリンシパルとして20年にわたって活躍した実力者である。2010年に帰国しNBAバレエ団で指導にあたってきたが、昨夏から芸術面を統括する芸術監督に就いた。40歳。働きざかりだ。

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2階にある大ホールは約70坪と広いけれども男性含め多くの団員が集い熱気むんむん。峰岸千晶、鷹栖千香、大森康正、ソ・ドン・ヒュンといった主軸級に加え若手も成長している。クラス後半では、細かい足技を組み立てたアレグロ(速い)の動きを代わる代わるこなしていく。久保みずから実践しアドバイスを送る。跳躍の踏み切り・着地のあいまいな点などを、すかさず指摘。ハードだが若い団員たちにとって血となり肉となるに違いない。

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終了後、久保に話を聞いた。

芸術監督に就任して半年。手ごたえは?
「ダンサーたちは、すごく良くなってきていると思います。(レッスン、リハーサルを)僕がきっちり観ていますし、以前よりも一体感があると自負しています」

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バレエ・リュスは現代バレエのルーツ
2月23日(土)~24日(日)、東京・五反田ゆうぽうとホールで開催される「ディアギレフの夕べ」では、20世紀初頭、パリが繁栄した時期にパリジャンの話題を独占したバレエ・リュスの舞台が蘇る。ロシア出身の大物プロデューサー、セルゲイ・ディアギレフ率いる当時一世を風靡したバレエ団で、その初期に活躍した天才舞踊手ニジンスキーの伝説は知られよう。ストラヴィンスキー、ピカソ、コクトーといった不世出の音楽家や美術家とのコラボレーションも行い20世紀の芸術思潮に大きな影響を及ぼしている。

「現代のバレエはバレエ・リュスを抜きに語れないじゃないですか?勉強すればするほど現代バレエ史につながるルーツだと感じます。当時の優れた才能を結集したバレエ団。その作品に少しでも携われるというのは面白いです」

上演するのはバレエ・リュス初期のレパートリー4曲。そのうちシューマンの音楽にのせてアルルカンやコロンビーヌ、ピエロたちが軽快に踊る『ル・カルナヴァル』(1910年)、ボロディンのオペラ「イーゴリ公」の一場面で勇壮な男性群舞が見ものの『ポロヴェッツ人の踊り』(1909年)、ショパンのピアノ曲に包まれて妖精と青年が織りなす叙情詩『ショピニアーナ』(1907/1909年)はNBAバレエ団が折りにふれて上演し好評を博している。

新制作となる話題作『クレオパトラ』
話題は新制作の『クレオパトラ』(1909年)だろう。舞台は古代エジプト。思いを交わした女性がいながら絶世の美女クレオパトラに恋をしてしまった青年の運命はいかに?という筋書きだ。エキゾチックな物語、色鮮やかな美術・衣裳にパリの観客は魅了されたという。

「いま世界中を探しても小さなバレエ団でやっているくらい。(フォーキンの振付を基に再振り付けする)アレクサンドル・ミシューチンが入れこんでいて、ことあるごとに『クレオパトラ』をやりたい!と。美術の資料やノーテーション(舞踊譜)を彼がすべて持っていてピアノの楽譜もある。ものすごい知識ですよね。彼には才能があると思います」

最高のものを提供し、みんなが楽しめる作品を
「ディアギレフの夕べ」への期待が高まるが、久保カラーが鮮明になるのは今夏以降の公演になる。今後の方針について聞いた。

「ディレクターの仕事を引き受けたのは日本のバレエ界を変えたいから。商業ベースに成り立っていない。アメリカではエンターテインメントビジネスとしての側面があって客が望まない作品はやらない。バレエは予備知識が必要で敷居が高くなってしまいますが、どんなジャンルでも一流のものだったら人は魅入られる。最高のものを提供しないといけない。もちろん、いい作品は再演しますが、新しい作品をやらないといけない。アメリカで培った経験を活かして日本のお客さんに合うか合わないかを考えていきたいですね」

6月には英国ロイヤル・バレエ団に振り付けた『不思議の国のアリス』が話題を呼び、世界が注目する奇才クリストファー・ウィールドンの『真夏の夜の夢』を上演する。

「ウィールドンは英国ロイヤル・バレエ団出身ですから(英国バレエの父といわれる)フレデリック・アシュトンのバージョンがベースになっています。でも、僕個人の意見を言わせてもらえば、アシュトン版よりも、おもしろい。みんなが楽しめる作品です」

来年には大作『ドラキュラ』の上演を予定している。

「イギリスのノーザン・バレエ・シアターを経てアメリカのミルウォーキー・バレエのディレクターを務めているマイケル・ピンクさんの作品。彼も天才です。ゼロから振りと音楽を付けて創られ、音と振りが完全にマッチしている。音楽もすばらしい!」

所沢からグローバルに発信する
昨年末には『くるみ割り人形』を自身の手で新たに演出・振り付けた。今年の暮には東京のほか所沢でも上演する。地域に根付いた活動に一層力を入れるようだ。

「僕の考えではアドバンテージになる。海外では一都市一バレエ団といったように地域がバレエ団をサポートしてくれる。市民の皆さんも誇りに思って、ウチにはこういうバレエ団があるんだ、という意識を持ってくれる。郊外にあるのは大きな利点だと思っています」

インタビュー終了後、『ポロヴェッツ人の踊り』のリハーサルを観ることができた。囚われの人(ソリスト)を踊る鷹栖やポロヴェエツ男性役の泊陽平をはじめとする団員たちは久保やバレエミストレスの大畠律子の叱咤激励のもと緊張感を保ちつつアグレッシブに動いている。志気は高いと見た。所沢という地に根差しながらグローバルな視点を打ち出し、日本のバレエに新風を吹きこむ――。新生NBAバレエ団の動向に注目したい。

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取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)

写真:バレエナビ編集部 吉田智大

 

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ユーモアたっぷりのピアニスト
ユーリ・コジェバートフ氏