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PICK UP!

久保綋一(NBAバレエ団芸術監督)にインタビュー
~眠くなるような舞台にはしたくない! 久保版古典改訂のこだわりとは~

1993年に創立されたNBAバレエ団(日本バレエアカデミーバレエ団)は意欲的な創作やバレエ史上の貴重な秀作の上演に力を注いできましたが、2012年よりアメリカで活躍した久保綋一さんが芸術監督に就任し、芸術性とエンターテインメント性を兼ね備えた作品群を上演して日本バレエ界に刺激を与えています。直近では2018年3月に久保版『海賊』世界初演、同年9月にリン・テイラー・コーベット振付の『リトルマーメイド』を成功させています。2018年11月、12月の『くるみ割り人形』、2019年3月の久保版『白鳥の湖』初演を前に久保さんに話を伺いました。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)

 

 

――2012年に初演し2013年に舞台美術・衣裳も新たにして制作した久保版『くるみ割り人形』は毎年年末に上演を重ねています。どのようなコンセプトで創られたのでしょうか?
現代のお客さんの感覚に合うものを創りたいと考えました。スピーディーな展開を心がけ、コメディ要素も取り入れています。小さなお子さんも来られるので、第1幕のパーティーシーンを短くしたりして飽きさせないようにしています。僕が踊ってきたアメリカの文化はエンターテインメント色が強く、ブロードウェイにしてもとにかく明るいですね。日本はどうしてもヨーロッパ偏重なので、アメリカ文化を紹介するためにも良いと思って上演しています。パーティーシーンやネズミたちとの戦いはコミカルですが、笑いを取りに行こうとしているのではなく、お客様に楽しんでいただけるように考えてのいわば〝遊び〟です。

――毎年上演を重ねて変わってきたことはありますか?
最初は自分が所属していたコロラド・バレエのエッセンスがありましたが、今では独自の演目として成り立ってきました。プロジェクションマッピングを使った演出も満足のいくものができましたし、いろいろな方の協力を受けて良い作品になったと思います。

 

――今年のセールスポイントはどこですか?
演出を一部変えます。毎年ご覧になっている方は「ここが変わった!」と分かるかと思います。それから若手を抜擢しフレッシュな配役にしました。所沢公演(11月17日昼・夜)、東京公演(12月8、9日)、長岡公演(11月23日)、秩父公演(11月25日)があり全部で6キャストを組んだので皆の刺激にもなると思います。そしてドロッセルマイヤー役にマシモ・アクリさんをお招きしました。温かみがありますし働きやすい方です。

 

――2019年3月2日、3日に久保版『白鳥の湖』を初演します。これまで主にアメリカ・バレエを中心とした作品を上演してきましたが、ここで古典バレエの代名詞といわれる『白鳥の湖』に挑む理由をお聞かせください。
理由は2つあります。ひとつはバレエ団内部のことになるのですが、今までアメリカものやエンターテインメント性の高い舞台、オリジナル作品をやってきたので、ここで一本ダンサーの成長できる正統的な作品をやりたくなりました。ダンサーが鍛えられて、かつクラシックなものとして『白鳥の湖』を選びました。もうひとつの理由は、NBAバレエ団=ユニークな作品を上演するバレエ団であると評価し、応援してくださる方々がいらっしゃり有難いのですが、だからこそ変化球だけでなく「ちゃんとしたものもできるんだよ、純クラシックもやりますよ」とアピールしたい。やっぱりマスターピースですし、一度やっておきたかったという気持ちもありました。

――今春の久保版『海賊』は〝新訳〟と称されたように大胆な解釈を打ち出しました。『白鳥の湖』の改訂はどのようにされるのですか?
バレエ特にフェアリーテイルものは、どうしても「バカな男性を女性が救う」みたいな話が多いじゃないですか?王子が『白鳥の湖』の第2幕でなぜオデット(白鳥)に会ってひと目で愛を誓うのか、なぜ第3幕でオデットとオディール(黒鳥)の見分けもつかないのか。バカ王子を救済してあげたいのですが(笑)、そちらにフォーカスすればするほど白鳥の存在無しでも成立するのではないかと考えて悩んでいます。
それから、なぜ王子には父王がいないのか、父はどういう死に方をしたのだろうかと妄想が膨らんだりします。でも裏設定は正直自己満足でしかないんですね。観客は踊りを見に来るわけですから。ならば普通の版で良いのですが、そうは問屋が卸さない。皆普通の話に飽きて現代に照らし合わせて何とか変えたいと思うんだけれど、回りめぐって元に戻ってしまう。『白鳥の湖』って、変えれば変えるほど辻褄が合わなくなるので悪戦苦闘しています。
第2幕の湖畔の場面は変えずにやり針山愛美さんにご指導いただきます。第3幕の舞踏会、そして最後の第4幕は変える予定です。音楽も一部変えます。冨田実里さんに音楽監修と指揮をお願いしチャイコフスキーの音楽からピアノスコアしかない曲を使ったりします。関東でバレエ団がうちだけだったらスタンダードなものをみせなければいけないという宿命がありますが、いろいろなバレエ団が上演しているので「変えても分かるよね?」と。

 

――『海賊』に続いて気鋭の振付家でソリストとしても活躍している宝満直也さんと共に改訂に取り組みます。
ステップは主に宝満に任せて、僕は全体の監修・構成・演出を手掛けます。彼には凄く才能がありますよ。

――アリーナ・コジョカルさん(イングリッシュ・ナショナル・バレエ リード・プリンシパル)、平田桃子さん(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)がゲスト出演するのが話題です。
誰がオデット/オディールを踊るかは重要です。コジョカルは僕の好きなダンサーで可愛らしく、うちのバレエ団のカラーにフィットすると思います。パートナーは調整中です。平田さんには伸びてきている高橋真之と組んでもらいます。平田さんもバランス的にうちに合っていると考えました。

――あらためて『白鳥の湖』改訂への抱負をお願いします。
『くるみ割り人形』と同じように今の生活スタイルに合わせ、お客さんに過度なストレスをあたえない尺にする予定です。眠くなって、何を見ていたか分からないような舞台にはしたくないんですよ。楽しんでもらうことが一番です。芸術だからって辛くても見るというのがバレエの真髄とは違うと思うんです。楽しまないと、ドーパミンが出ないと!

――来春以降のNBAバレエ団の予定・展望をお話しください。
2019年10月に『海賊』の再演、2020年2月には「ホラーナイト」を予定しています。「ホラーナイト」ではマイケル・ピンクの『ドラキュラ』を一部分だけお見せし、あとは宝満の『狼男(仮題)』を上演します。将来的には海外に作品を輸出したい。世界のバレエ団がレパートリーにしている日本発の作品って、まずないじゃないですか?そこを目指していきたいですね。


★ ☆ ★ 公 演 情 報 ★ ☆ ★
 NBAバレエ団公演 『くるみ割り人形』
2018年11月17日(土) 所沢市民文化センターミューズ 中ホール
2018年12月8日(土)・9日(日) 東京芸術劇場中ホール

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NBAバレエ団公演 久保紘一版『白鳥の湖』
2019年3月2日(土)・3日(日) 東京文化会館大ホール


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