【PICKUPについて】

このコーナーはバレエナビが取材させて頂いたホットな話題を取り上げております。
バレエやダンスに関する人・商品・サービス・イベント・公演など取り上げさせて頂く話題は多岐にわたります。
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PICK UP!

海外バレエレポート(イタリア)
ミラノ・スカラ座バレエ団『オネーギン』

読者のみなさま、はじめまして!
この度、私の住む町イタリア・ミラノより、スカラ座におけるバレエ公演、またスカラ座バレエ団・付属バレエ学校に関してお伝えさせて頂くことになりました、バレエ伴奏ピアニスト兼クラシック音楽・バレエジャーナリストの川西麻理と申します。

日本でバレエというと、ボリショイ、ロイヤル、パリオペラ座、ニューヨークシティバレエなどが話題に上がることが多く、残念ながらその中にスカラ座は入っていない様子。ですが実際には、スカラ座バレエ団は現在、前述のバレエ団に勝るとも劣らないレベルにあります。スカラ座と言えば「オペラの殿堂」。それは紛れもない事実です。しかし時代は変わりました。今スカラ座は、オペラからバレエへ、密かに重心をシフトしつつあります。なぜかといえば、公演の質、集客力などすべての点において、バレエがオペラを凌ぎつつあるからです。


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さて、初回の今回は、9月23日~10月18日まで舞台にかかっていた「オネーギン」についてです。イタリア人の現役ダンサーの中で世界で一番有名なのは間違いなくロベルト・ボッレでしょう。彼がオネーギンの第1キャストを演じました(ちなみに、日本の皆さんもよくご存じであろうスヴェトラーナ・ザハーロワは長年ボッレのパートナーで、スカラ座の常任エトワールです。ザハーロワの日本語版のウィキペディアを見てもスカラ座の「ス」の字も載っていません。このようなところからも、スカラ座は日本ではバレエ団としては全く興味をもたれていないことが分かり、ちょっと寂しいです)。


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『Onegin』Roberto Bolle

オネーギンの第2キャストは、ガブリエーレ・コッラード。スカラの付属学校、バレエ団ソリストを経て、ジャン=クリストフ・マイヨー率いる、モンテ・カルロバレエ団に移籍したダンサー。そして、タティアナの第1キャストは客演で、ロイヤルのプリンシパル、マリアネラ・ニュネス。実は彼女、今回の「オネーギン」のリハーサル中、スカラ座アカデミーの伴奏者コースの私たちが付属バレエ学校の授業を伴奏していた時、なぜかこっそりその授業にウォーミングアップで参加していたんです!あまりにも控えめで、あまりにも可愛らしかったので、まさか彼女とは気が付かず。後で聞いてびっくりしました!第2キャストは、スカラ座バレエ団ソリストの、エマヌエーラ・モンタナーリ。彼女はスカラ座バレエ団のソリストですが、ソリストから主役に大抜擢されたのでしょう。バレエ団のバー&センターレッスンで顔は見たことがありましたが、名前は今回のキャストで初めて知りました。


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『Onegin』Marianela Nunez Roberto Bolle


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『Onegin』Emanuela Montanari Riccardo Massimi

さて、実際の上演ですが、私が見たのは第2キャスト。つまり、オネーギン:ガブリエーレ・コッラード、タティアナ:エマヌエーラ・モンタナーリの回でした。他のキャストも名前を挙げておくと、オネーギンの親友レンスキーは、クラウディオ・コヴィエッロ(ローマ劇場付属バレエ学校を卒業した後、スカラ座バレエ団に入団、現在プリンシパル)、タティアナの妹オリガは、アニェーゼ・ディ・クレメンテ(2016年スカラ座付属バレエ学校卒)でした。私が前もって知っていたのは、昨年「白鳥の湖」の王子役で見たコヴィエッロのみ。他のダンサーについては全く知りませんでした。しかし、その公演のレベルの高さと言ったら!


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『Onegin』Claudio Coviello Agnese Di Clemente

観衆は最初から最後まで、彼らのテクニックはもちろん、その表現力の凄さに圧倒され続けました。非常に高い演技力が必要とされるこの作品で、彼らは私たち観衆の待ち望んでいたレベルの更に上を行くパフォーマンスを見せてくれました。全く非の打ちどころがない、本当に感動的な公演でした。第2キャストでこの出来(もちろん第1キャストが良くて第2が悪いということは全くありませんが、経験や知名度において第1が名目上頭一つ上であることは周知の事実ですよね)。この公演レベルは世界のどの劇場と比べても絶対に引けをとるものではありません。当然、ソリストたちだけではなく、コールドのレベルも同様です。またスカラは、衣装・舞台装置のセンスの良さと豪華さに関しては「オペラの殿堂スカラ座」の名声からも分かる通り、世界でもトップクラスです。


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『Onegin』Marianela Nunez Alessandra Vassallo Timofej Andrjiashenko

みなさん、どうぞスカラ座バレエ団にも目を向けてみてください!すでに世界一流のレベルを持つこのバレエ団ですが、付属バレエ学校では、物凄い倍率を勝ち抜いて入学した、まさに「ミニ・ザハーロワ」と言いたくなるような体を持つ子供たちがしのぎを削っているのですから、これからも更にレベルは上がっていくことは間違いありません。スカラ座はオペラだけのものではない、いやむしろこれからは、バレエのスカラ座と呼ばれるようになる日も近いと、間近で見ている私は確信しています。


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『Onegin』

また12月からの新シーズンの演目はまさに傑作ぞろい(http://www.teatroallascala.org/en/season/2017-2018/index.html
ぜひぜひお楽しみに!!

 

記事:川西麻理

 

川西麻理の「バレエ音楽 豆知識」
「オネーギン」はバレエの歴史の中でも大傑作の1つ。天才振付家ジョン・クランコの溜息がでるような動きとその卓越した物語性。それらの素晴らしさについては、バレエに詳しい読者の皆様にあらためて語る必要はないでしょう。ただ一つ、音楽家として申し上げたいのは、「VIVA!」と大きな拍手を送りたいのはチャイコフスキーではなく、チャイコフスキーの様々なジャンルの音楽から情景に合ったものを選んで編曲したクルト=ハインツ・シュトルツェだということです。その人誰?と思う方がほとんどだと思いますが、この「オネーギン」の音楽に関しては、凄いのはこの彼なんです!「チャイコフスキーの様々なジャンルの音楽から情景に合ったものを選んで編曲した」 なんてさらっと書きましたが、その手腕と言ったら!その作業の難しさが分かって頂けるでしょうか?作曲家としてはいっそのこと、最初からバレエのために1から全てを作曲する方が簡単かもしれません。同じようなパターンの作品には、来月12月に新シーズンのオープニングを飾る、ノイマイヤー振付の「椿姫」があります。この作品の音楽がオールショパンであることは有名です。しかし、この作品でなされた音楽的作業は簡単。なぜなら、「オネーギン」で行われたような、ピアノ曲をオーケストラ用に“編曲する”という作業は行われておらず、既存の音楽を切り貼りし繋げただけだからです。少し話が難しいでしょうか?いずれにせよ、この「オネーギン」の素晴らしい音楽の裏の立役者、シュトルツェの存在も覚えてあげて下さいね。