【PICKUPについて】

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PICK UP!

日高有梨(牧阿佐美バレヱ団)インタビュー
~名門の伝統を受け継ぎ次の世代に伝えたい~

日本バレエ界の名門・牧阿佐美バレヱ団は、近年ダンサーが若返り、舞台に新たな活気が感じられます。そんな牧バレヱ団の新時代をリードする存在として注目されるのが、気鋭にしてキャリア豊富な日高有梨さん。主役はもとより多彩な役柄を踊り活躍中です。日高さんに、これまでのバレエ人生や牧阿佐美バレヱ団の現在、今後の展望をうかがいました。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)  インタビュー写真撮影:石川 陽

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バレエを始めた頃の話をお聞かせください。
身近にバレエがあったので3歳くらいから自然に足を踏み入れました。地元のスタジオに通っていましたが、バレリーナになりたいと思って自分の意志で週に何日もレッスンに通うようになったのは小学校高学年です。橘バレヱ学校にも入り沢田加代子先生のクラスを受けました。凄く温かい先生でした。その人にあったやり方で身体に無理のないように基礎を入れてくださる。中学生になると諸星静子先生、高校生になると、ゆうきみほ先生や三谷恭三先生に教わりました。小学6年生からはA.M.ステューデンツ(牧阿佐美バレヱ団主宰・橘バレヱ学校長の牧阿佐美がプロを目指す生徒を指導するクラス)にも入りました。

橘バレヱ学校で学んだことは?
先生方も橘を卒業し牧阿佐美バレヱ団で踊っていらっしゃる方々なので、学校公演のリハーサルの際に一つひとつのステップにも意味があったりするというような所まで習いました。仲間もいいライバルで深い絆がある。それが、皆が温かい牧バレヱ団の良い面に繋がっています。子役としてバレエ団公演に出演させていただくこともできました。卒業作品『白鳥の湖』第2幕は、初演を踊られたゆうき先生に教えていただき、牧阿佐美先生にも見ていただきました。高等科最後のクラス作品は牧先生振付の『Jupiter』。牧先生はお忙しくなられたので、直接新作を振付していただけるのは、とても貴重な体験でした。

「白鳥の湖」日髙有梨 2011年(撮影鹿摩隆司)
日高有梨 2011年『白鳥の湖』 撮影:鹿摩隆司

A.M.ステューデンツの雰囲気は?
私は22期生です。周りの子が子役をバリバリ踊っていた時期で新国立劇場の開場記念公演に出ていたりしました。プロを目指す生徒のクラスなので、いい意味での競争があり、皆が前に前に出ようとしていた。皆簡単に3回転4回転回れる。「ここまで出来なきゃいけないんだ……」と思って一瞬気持ちが落ちこぼれそうになりました。でも、その人たちに助けられて頑張ることができたし、仲間ができたから、ここまで自分の意志で来られました。

牧阿佐美先生のご指導はどのようなものでしたか?
今でも牧先生のクラスを受けていますがテンポがよく「時空を超えちゃったんじゃないか」と感じるくらいです。A.M.のクラスは月3回あります(年代ごとに土曜日と日曜日)。受けた週と、そうではない週では体の感覚や調子が違うのが子供でも分かりました。アンシェヌマンの組み方が計算されていて「踊りたい、踊りたい」という方向に持っていってくださる。「バレエは貯金できないのよ」とおっしゃられたのが印象に残っています。「毎日コツコツとやった人が最終的に大人になって花開く」「今日だけ、その日だけでなく、一日一日を大切にしなさい」と。私は遅咲きだと思います。周りにどんどん役が付いていったりすると焦ってしまい、何度も諦めそうになったのですが、牧先生の言葉をずっと信じてきて本当に良かったです。

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小さな頃から牧阿佐美バレヱ団の舞台を観て育たれました。印象に残る舞台は?
たくさんありますが『三銃士』初演(1993年)が特に印象に残っています。岩本桂さんのコンスタンスが可愛らしくて好きだったんですよ。草刈民代さんの王妃、佐々木想美さんのミレディも印象に残っています。民代さんが凄く綺麗に踊られた『椿姫』、大畠律子さんがリーズを、三谷先生がシモーヌを踊られた『リーズの結婚』初演(1991年)も記憶に残っていますね。『白鳥の湖』のパ・ド・カトルを志賀三佐枝さんや酒井はなさんたちが踊られたのも忘れられません。『白鳥の湖』ではコール・ド・バレエの美しさも心に残っています。

牧阿佐美バレヱ団の舞台の、どこに惹かれましたか?
単純に凄い好きだったんです。小さな頃から母親がよく舞台鑑賞に連れていってくれたので、たくさんの舞台を観ましたが、牧バレヱ団のダンサーの踊り方、舞台の創り方どれ一つとっても好きでした。「将来ここで踊りたい!」と思ったんです。『白鳥の湖』にしろ『眠れる森の美女』にしろ、時代背景に沿って創られている。そこにこだわり、きちんと計算されているクラシック・バレエの舞台は世界でも少ないと思います。伝統を大事にしているバレエ団なので魅力的だなと年を追うごとに思うようになりました。高校を卒業してノルウェーとドイツのカンパニーに研修に行く機会がありました。劇場付きなのは良いなと思ったのですが、クラシックの作品をここまでレパートリーに持っているカンパニーは少ない。クラシック・バレエが踊りたいし、牧先生のもとで踊りたいと思いました。

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2003年に牧阿佐美バレヱ団に入団されます。
高校を卒業して入りました。入団した頃は入ったことに浮かれていたので、周りが見えていなかったですね。先生、先輩、仲間に助けられました。ローラン・プティさんやメール・パーク先生、アザーリ・M・プリセツキー先生といった海外の素晴らしい振付家・指導者の方が指導されているのを隅からでも見られたのは良い経験でした。新人が担当する音出し係“テープ番”は緊張します。分数とパ(ステップ)を全部書いてでも覚えなければなりません。でも牧バレエ団特有のレパートリーを自分が出演する前に理解でき勉強になりました。

最初の頃はどのような役を踊られましたか?
入って1年間くらいほとんど舞台に出られませんでした。実力不足でした。その後も舞台に出られない時期がありましたが、アンダー・キャストに入れていただきリハーサルには参加できました。このままバレエを続けていてもいいのかな?と思うこともありましたが、吸収できることは吸収し、踊らせてもらえる機会にちゃんとやれるようにしておこうと。辛かったですが、その時期があったから今の自分があると思います。『くるみ割り人形』では兵隊、キャンディボンボンに続いて花のワルツ、雪のコール・ド・バレエを踊らせていただき、『白鳥の湖』でも、ほとんどの衣裳を着ました。一歩ずつ階段を登ってきた感じです。今では主役を踊らせてもらえますがコール・ド・バレエを踊る機会もあります。色々な役を踊れるのが今の私のラッキーな所。幅も広がってありがたいです。

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2008年12月の『くるみ割り人形』雪の女王に抜擢されました。
自分が踊るとは思ってもいませんでした。『くるみ割り人形』の花のワルツのソリスト、『白鳥の湖』の各国の姫を踊ったくらいでソロを踊ったことすらありませんでした。ある日、王子役の清瀧千晴くんと金平糖の精役の坂本春香さんも初役だったので、二人に「よろしくね!」と言われたんです。最初意味が分からず、掲示されている配役を確認して驚きました。その年は大先輩の吉岡まな美さん、笠井裕子さん、それに青山季可さんも雪の女王を踊りました。私が入った頃にはベテランの先輩方が色々な役を踊られており学ばせていただきました。公演当日ゲネプロの記憶がないんです(笑)。本番は意識がはっきりして踊れました。主役を踊っている人は凄いなと。背負うものが大きいなと感じました。

その後『くるみ割り人形』の金平糖の精、『白鳥の湖』のオデット/オディールと大役が続きます。
『くるみ割り人形』の金平糖の精では、逸見智彦さんに支えられ気持ちよく踊ることができました。牧バレヱ団で主役を踊るのが小さい時からの目標だったので「夢が1つ叶ったな」と。それまで生きてきた中で最高の1日でした。『白鳥の湖』はバレリーナだったら主役を踊ることに憧れる作品ですが、正直機会はないだろうと思っていました。王子役の菊地研くんとリハーサルの時点で毎日全幕を通して踊っていました。「王道の『白鳥の湖』を創りたいね」と話し合っていました。自分らしさよりも牧の伝統ある『白鳥の湖』にどれだけ近づいていけるかが大事なので。主役としての在り方など三谷先生はじめ先生方から教わったことを一つひとつ丁寧にこなしました。

日髙有梨くるみ
日高有梨『くるみ割り人形』金平糖の精 撮影:山廣康夫

2012年には『ロメオとジュリエット』のジュリエット、今年6月には『ドン・キホーテ』のキトリを踊り好評でした。役作りはどのように行っているのですか?
普段から電車に乗っていても役のことを考えています。周りに座っている人には変な人と思われるかもしれません(笑)。『ロメオとジュリエット』の時は毎日音楽を聴いていました。自分で考えリハーサルをして自然に役に近づいていけるように根を詰めています。器用じゃないので踊りながら考えることはできません。本番で踊ることに集中できるように持っていく。プリセツキー先生と牧先生の『ロメオとジュリエット』が好きなんです。出会い方一つにしても、バルコニーの場面のロミオとジュリエットのキスのタイミングにしても、よく観ていた映画になんとなく似ている感じがして大好きですね。

「ロメオとジュリエット」2012年日高梨(ジュリエット)撮影鹿摩隆司
日高有梨2012年『ロメオとジュリエット』 撮影:鹿摩隆司

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日高有梨『ドン・キホーテ』キトリ 撮影:山廣康夫

今年3月の『三銃士』では王宮で陰謀を張り巡らす悪女ミレディに挑み鮮烈でした。
『三銃士』だったらミレディを踊りたかったんです。お芝居を研究しました。お客様には想美さんをはじめ代々踊られた方のイメージがあるだろうし映画にもなっている。私は同じようにはなれないから「ミレディがどういう気持ちでその立場になったのだろう」と考えて役作りを始めました。「悪いことしようと企んだのではなく、自分が生きていく上で一直線に進んだ結果そうなってしまったんじゃないかな」と思って物語を追いました。ダルタニアン役のイヴァン・プトロフさん(元英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)とは以前に踊ったことがあるので「こういう風にしたいよね」と話し合うことができました。

日髙有梨「三銃士」ミレディ 2014年(撮影鹿摩隆司)
日高有梨2014年『三銃士』ミレディ 撮影:鹿摩隆司

小さな頃から牧バレエ団の舞台を観て育ち、入団後も様々な役を踊られ経験を積まれています。その立場から現在の牧バレエ団はどう映りますか?
世代交代し、橘バレヱ学校、A.M.の出身ではない人も増え、新しいバレエ団みたいになってきている。伝統ある作品に新しい風が加わってフレッシュな雰囲気になっています。そこに先輩たちから受け継いだ伝統や牧阿佐美バレヱ団の魅力が加わると、今まで以上の作品ができると思います。コール・ド・バレエにしても、一人ひとりが物語の登場人物になり、より深く踊れるようにできたらいいなと。初役の多い作品の場合、どうしても初めてやることに必死になります。しかし、作品を理解して舞台人として舞台に立つのが最低限だと思います。皆で一緒に毎回毎回進化した舞台を創っていく所までできたらいいなと。

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今後踊りたい役、やりたいことなど目標を教えてください。
私、結構夢が叶っているんです。牧バレヱ団で主役を踊りたかったですし『白鳥の湖』のオデット/オディールを踊りたかった。大好きな『ロメオとジュリエット』でジュリエットを、『三銃士』でミレディを踊れましたし、『ドン・キホーテ』のキトリも踊れました。本当に幸せです。今後も機会をいただけるなら、どんな役でも踊りたいですし、もう一度ジュリエットやミレディを演じてみたい。牧バレヱ団は古典以外にも素晴しい作品をレパートリーに持っており最近上演していないものもあります。プティさんの『アルルの女』とか端っこでも出たいです(笑)。今を生きるのに必死で、先のことは全然考えていません。でも牧バレヱ団の公演に貢献したいです。牧先生や三谷先生に出会い、牧バレヱ団に入れていただいたことは私の人生の大きな出来事です。多くの先輩方から吸収してきた伝統を皆に伝え、牧阿佐美バレヱ団が続いていくお手伝いができれば素敵だなと思います。

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★☆★ 牧阿佐美バレヱ団 公演情報 ★☆★

【 くるみ割り人形 】
2014年12月13日(土)14:00 / 18:30 開演
2014年12月14日(日)14:00 開演
(開場は45分前より)

12月13日(土)14:00
金平糖の精・青山季可、王子・清瀧千晴、雪の女王・中川郁
12月13日(土)18:30
金平糖の精・伊藤友季子、王子・菊地研、雪の女王・久保茉莉恵
12月14日(日)14:00
金平糖の精・日高有梨、王子・中家正博、雪の女王・三宅里奈

公演詳細はコチラhttp://www.ambt.jp/perform.html#kuru
牧阿佐美バレヱ団ホームページhttp://www.ambt.jp/index.html

[youtube http://www.youtube.com/watch?v=5jj9aPJ9EbE?rel=0&w=450&h=253]

 

 

 

【 眠れる森の美女(全幕) 】
2015年2月28日(土)17:00 (開場16:15)
2015年3月1日(日)15:00 (開場14:15)
上演時間 約3時間10分(休憩2回含む)