SHIVER 2020

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【バレエと日本舞踊(上)】~日本人ダンサーの武器“キャラクター・ダンス”としての日本舞踊~

数年前、モスクワの友人に誘われて、モスクワ・バレエ・アカデミー(ボリショイ・バレエ学校)の卒業試験を見に行った。学校内のホールでの公演のような実技試験。その日はキャラクター・ダンスの試験日だった。

ロシアの民族舞踊やジプシーの踊りなどが披露された後、「次は留学生による日本の民族舞踊」とのアナウンス。舞台に登場したのは、日本人留学生たちだった。浴衣を着た彼女たちは愛らしく、邦楽にのせての「日本舞踊風」のダンスは、たしかに「キャラクター・ダンス」としての存在感を放っていた。聞けば、指導したのはロシア人のキャラクター・ダンスの教師だという。彼女は知人から日本舞踊を教えてもらい、それを日本人留学生に伝授したらしい。

ロシアだけでなく世界中のバレエ学校では「キャラクター・ダンス」の授業がある。「白鳥の湖」など純クラシック・バレエ作品にも「キャラクター・ダンス」の見せ場があり、そのためにプロのバレエ・ダンサーを育てるバレエ学校では、その指導も行っている。また、自国の民族舞踊を授業として取り入れているところも少なくはない。キエフ・バレエ学校ではウクライナの民族舞踊を教えていたし、バルト三国のエストニア、リトアニア、あるいはポーランドもそうだった。タン・ヤンヤンら名ダンサーを輩出している中国のバレエ学校にも中国の民族舞踊のクラスが存在していた。

現代のバレエ・ダンサーはクラシック・バレエだけでなくコンテンポラリーも、キャラクター・ダンスも踊れなければならない。とともに自国の「民族舞踊」はダンサーにとって「武器」になる。レベルの高いダンサーは世界中に、いまや大勢いる。そうなると必要とされるのは個性。その「個性」を際立たせるツールのひとつは「民族舞踊」ではないだろうか。有名バレエ・ダンサーには、マトビエンコなど「民族舞踊」を習っていた人が多い。あるいは新国立劇場バレエのプリンシパル、小野絢子にしても幼少時に日本舞踊を学んでいたという素地を持つ。『パゴダの王子』で見せた東洋的な仕草の美しさはもちろん、『白鳥の湖』などヨーロッパが舞台のドラマの中でも、しっとりとした独自の情緒を感じさせるのは、彼女が良い意味で「日本人らしい」ダンサーだから。その「日本人らしさ」には、日本舞踊の経験が大きく関わっていると思われる。

「日本舞踊」は、バレエ用語で表せば、「キャラクター・ダンス」のひとつといえなくはない。前述したモスクワ・バレエ・アカデミーのロシア人教師は、「日本舞踊」が、ロシアの民族舞踊にも劣らない「キャラクター・ダンス」であることを見抜いていたのだ。バレエ留学も大事だが、いや外国で学ぶなら、なおさらのこと、日本のバレエ・ダンサーは、「日本」について知っておかなければならない。能・狂言・歌舞伎など日本の伝統芸能はいくつもある。そのすべてのエッセンスがこめられた「キャラクター・ダンス」=日本舞踊を知ることは、日本のバレエ関係者にとって必要なことだと思う。

だが、なかなか「日本舞踊」を見る機会に恵まれないのが、現在の日本の状況。私自身、数年前までは、「日本舞踊」をあまり見たことはなかった。たまたま結婚した相手が日本舞踊家の藤間蘭黄(ふじまらんこう)であったため、日本舞踊により接するようになった。またファルフ・ルジマートフやユリア・マハリナら古くからのバレエ・ダンサーの知り合いに夫を紹介すると、私が説明する前に「ダンサーでしょう?」と彼らは察知。ダンサー通しの会話を(言葉の壁なく)しているのを見て、「日本舞踊」はダンス、であることをあらためて知った。ルジマートフらが夫の舞台を見に来たときには、ルジマートフは大興奮だった。イーゴリ・コルプやオクサーナ・シェスタコワにせがまれて、夫の稽古場を見学させてもらったときも、彼らはとても興味深げだった。ロシアやウクライナなどで夫が日本舞踊のワークショップを行ったときも、プロのダンサーや振付家が多く受けに来ていた。
バレエと日本舞踊は意外と遠くはない。バレエ・ダンサーが日本舞踊から「盗む」べきことは沢山あると思う。

記事:桜井多佳子

藤間蘭黄HP
http://www.geocities.jp/rankoh_f/

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(ファルフ・ルジマートフ氏と楽屋にて)

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(ファルフ・ルジマートフ氏と楽屋にて)

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藤間蘭黄  撮影:篠山紀信