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谷桃子バレエ団 創作バレエ・14「古典と創作」リハーサル・レポート&インタビュー

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=WZ_9JNYjgNc?rel=0]

 

『道化師~パリアッチ~』 リハーサル・レポート

谷桃子バレエ団は戦後を代表するプリマバレリーナ谷桃子(現・総監督)が設立し今年で創立64年。名門がきたる7月、創作バレエ・14「古典と創作」を行う。古典の名作と団員によるクリエイティブな創作を一度に楽しめるお値打ちの公演といえよう。

今回はクラシック・バレエの粋(すい)を集めた壮麗な舞踊絵幕『ライモンダ』より第三幕に加え新作『道化師~パリアッチ~』を上演する。これはルッジェーロ・レオンカヴァッロが作曲し1892年に初演されたオペラのバレエ化。イタリア・カラブリア地方の村を舞台に旅回りの一座の巻き起こした事件を描く。

振付は同バレエ団で長年主役を踊り金看板のひとりとして活躍してきた伊藤範子。振付家としてはオペラの振付に定評あるがバレエ団本公演で作品発表するのは初めてだ。音楽はレオンカヴァッロによるオペラ曲のほかマスネなどの曲を加えている。

公演まで2週間を切った稽古場を訪れ、通しリハーサルを観覧した。

冒頭、コメディア・デラルテ(仮面を付けて演じる即興演劇)の一座が村にあらわれ、夜に催す芝居の前触れを行う。樽を持った男たちが威勢よく踊り、せむしの道化役者トニオ(近藤徹志)が太鼓をリズミカルに叩く。座長カニオ(三木雄馬)は帽子をかぶりニヒルな表情を浮かべる。それに惹かれる村娘たち。カニオはお調子者のトニオをぶつ。のどかな光景だ。

ひとり取り残されたトニオの妻で女優のネッダ(林麻衣子)は自由に憧れる「かごの鳥」。そこへネッダを思慕するトニオが襲いかかるも恋仲にある村の青年シルヴィオ(檜山和久)が助けに入る。見つめあい、口元を寄せ、抱きあうふたり――。そこへトニオの告げ口によってカニオが戻り、シルヴィオは逃走。カニオは激するがネッダは情夫の名を明かさない。

芝居の開演迫るなか踊られる三木のソロに目をみはった。カニオの、失意と怒りを隠せないのに座長として役者として観客を笑わせなければならぬ葛藤――それが陰影あるたたずまいと踊りから痛いほどに伝わってくる。三木の新たな代表作となるかもしれない。

カニオの独白のあと、色男の道化役者ペッペ(山科諒馬)の吹くトランペットやトニオの叩く太鼓の音にあわせて道化役者たちが軽妙に踊る。さあ舞台が開幕!カニオはパリアッチョに、ネッダはコロンビーナに、トニオはタッデーノに、ペッペはアルレッキーノに扮してコメディア・デラルテを演じる。やがて舞台と現実が交錯し物語は急展開を迎える……。

アンサンブルの隅々までが「役を生きている」と感じた。谷バレエ団はスウェーデン・バレエの巨星ビルギット・クルベリによるドラマ性の高い名作やコミカルな芝居が楽しい恋愛コメディ『リゼット』をレパートリーとする。団のカラーや踊り手の特徴を知り尽くした伊藤が、お家芸の延長線上に新たな財産を生みだしつつある様子が見てとれた。

筋立てが分かりやすく演技・ダンスの見どころ豊富。音楽も華やかで編曲にオペラの仕事の経験をいかした伊藤ならでは工夫が随所に感じられる。装置にも華やかな芝居の世界と、その舞台裏の二面性を表すアイデアが反映されているという。楽しさと深さ、間口の広さをあわせ持ったドラマティック・バレエ誕生の瞬間に立ち会うのを心待ちにしたい。

 

『道化師~パリアッチ~』をめぐって伊藤範子(演出/振付)&三木雄馬(主演) インタビュー

――オペラ『道化師』をバレエにしようと考えられたのは?

伊藤:「1時間くらいのドラマのあるものを」とのお話があり、オペラの振付に携わって長いので、自分にあう題材を選びました。音楽がドラマティックです。それから劇中劇がありますが、バレエ・ダンサーにもダンサーという職業を持ちつつプライベートがある。すんなりと感情移入できるのではないかと。バレエ団に役者が揃っていることもあります。

――主演のカニオ(劇中ではパリアッチョ)は三木雄馬さんです。

伊藤:役者じゃなきゃいけないし、踊り手としてもすぐれていなければならない。スター性も重視すると三木さんがぴったり。白羽の矢を立てさせていただきました(笑)。

――カニオに決まったとき、どう思われましたか?

三木:新作のため、どういった役回りなのか分からない状態なので素直に入れました。(選ばれて)うれしいという感情と責任がのしかかってきたなという思いがあります。

――リハーサルはどのように進めたのですか?

伊藤:原作に沿ってあらすじを追っていきました。原曲の歌が入って成立するところもありますが、アリア(ソロ)では歌手の人の感情が勝ってしまう。そこでマスネの曲を入れたり、ヴァイオリンとピアノの二重奏を生演奏したものを録音した音源を加えたりしています。振りに関してはソロにせよパ・ド・ドゥにせよ台詞を話すように付けていきました。

――三木さんは、これまでも陰のある役柄を演じていますがカニオも陰影ある役ですね。

三木:人間味の強いキャラクターだなと思います。伊藤さんがおっしゃったようにダンサーが舞台上で演じることとパリアッチたちが演じていることは似ている部分が多いですね。普段舞台に立つときよりも緊張感が強い。精神状況にも左右されます。周りの方たちと、いかにうまくコミュニケーションをとって一座として成立させるかが難しいです。

――役作りはどのように?

三木:新作なので手さぐりです。伊藤さんが判断されることなので、われわれが首をかしげていたりしてはよくない。やりきってみないといけない。毎回リハーサルが終わると具合が悪くなる(笑)。でも、そのおかげで「しゃべっている言葉が見えてきたな」と感じたり「ここではこういう言葉を発するのではないか」という意見が言えるようになりました。

――カニオの葛藤をあらわしたソロが強烈です。ここではひとりで舞台を背負いますね。

三木:若い時からお芝居を教わるときに、いつも言われたことがあります。自分の理想に近い表現ができた日があったとすると、次の日どうしても同じことをしたいと思う自分がいる。正解だと思ってそこに行こうとすればするほど、お芝居のつじつまがあわない、動きのつじつまがあわないことが起こる。舞台で最善を尽くすにはどうすればいいかを考えると、昨日の夜何時に寝て、朝何時に起きて、何を食べてというところからすべて計算しなければならないんですね。今回のようにソロが多いと、その心情に持っていくには、自分のバイオリズムがシビアになってくる。日常の生活からかけ離れていないとできない。難しいです。それが舞台に出るかどうかは、まだまだ自分では判断できません。

――カニオの妻ネッダだけがダブル・キャスト(林麻衣子/日原永美子)ですね。

伊藤:背格好は似ているが(個性は)全然違う。
三木:僕が思うに、ものすごく生真面目な方と、ものすごく自由にやりたいというのが詰まっている方と極端な違いがありますね(笑)。
伊藤:各人の性質が反映されてくるんじゃないかな。ネッダは自由気ままで男は皆魅了されてしまう。魅力的な女性でありつつ孤児であったのを引き取ってくれたカニオへの恩義は忘れない。女優という職業も持っている。どう演じてくれるか楽しみです。

――伝統だと思いますが谷桃子バレエ団は演劇性に秀でているという印象があります。

伊藤:谷桃子先生ご自身がドラマティックなバレリーナでした。主役が「たつ」ためにはもちろん周りも演技を研究したと諸先輩方からお聞きしました。それは引き継いでいかなければならないと感じます。主役であっても、脇に回っても、作品をよくすることが自分たちをよくみせることでもある。引いたり出たりという芝居は作品のドラマを作るうえで大事です。
三木:谷バレエ団はアットホーム。団員同士が皆さんの思っている以上に仲がいい(笑)。今回別件のためにしばらくリハーサルを離れていたのですが、主要キャストから
毎晩のように一斉メールが来るんです。「自分はこう悩んでいる」「今日こういう演出の変更があった。どう思う?意見求む」みたいな。周りの人間の感情にも心くばりしなければいけないと思って、他の役柄に入り、お互いに立場を入れ替えて考えることを数限りなくやりました。

――本番に向けて積み上げることは?

伊藤:積み上げるというよりも掘り下げる。個々が(役柄を)掘り下げていったらおもしろいんじゃないかな。
三木:長編作品とは違って1時間少しの間にメインのシーンを積み重ねているので、掘り下げて作品の厚みがないと各シーンが立たないと思います。掘り下げるという作業を終えて、いかにうまくつなげていくか。そこへの意思統一が大切ですね。

――最後に三木さんにお聞きします。昨秋交通事故に遭い全身に大けがを負ったというニュースは衝撃的でした。舞台復帰されましたが、いまの心境をお話しください。

三木:死を身近に感じました。すべてを無くしたくらいに思っていた。バレエがあるからいま自分がこうやって楽しく笑って生きていられるんだな、というのを痛感した時期でもありましたね。お医者様に「以前通りに(体が)動くことは一生ないでしょう」と言われ覚悟のうえでリハビリを開始しました。団長(赤城圭)に「舞台に戻る気はあるのか?」と言っていただき気持ちが明るくなりました。自分がいま、この環境にいられるのはすばらしいこと。携わっている舞台芸術というものの愛しさといいますか、憧れといいますか、そういう感情は何年たっても色あせません。「まだまだ踊りたいな」という思いがすごく出てきました。「復活しちゃったな」って。「あのことがあってよかったな」といまは思っています。

 

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)
写真・動画撮影:石川陽
取材場所:谷桃子バレエ団スタジオ

<公演概要>
日時:2013/07/06 (土)2013/07/07 (日)
演目:「ライモンダ」より第3幕/「道化師~パリアッチ~」
会場:新国立劇場中劇場 東京都渋谷区本町1-1-1
チケット料金:S7,000円/A5,000円/B3,500円
お問い合せ:新演奏家協会03-3561-5012 desk@shin-en.jp 
備考:
7月6日(土)開場18:00 開演18:30
7月7日(日)開場14:30 開演15:00
詳細:http://www.tanimomoko-ballet.com