【PICKUPについて】

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PICK UP!

三谷恭三(牧阿佐美バレヱ団総監督)インタビュー
~名門を率いて20年―さらなる発展を目指して~

 

三谷恭三先生は日本を代表するダンスール・ノーブルとして活躍され、古典作品を中心に数多くの作品で主役・主要な役柄を踊られました。牧阿佐美バレヱ団総監督就任後は日本バレエ界屈指の名門大手をリードされています。三谷先生に総監督に就かれてからの軌跡や2016年に創立60周年を迎えるバレエ団の現在、今後の展望をお伺いしました。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家) インタビュー写真:石川 陽

 

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1994年に総監督に就任された際に考えられた運営方針は?
普通、自分のやりたいこと、考えていることをやるじゃないですか?レパートリーをこう変えたいとか。しかし、自分の心の根っこにはクラシック・バレエが入りこんでいるので、そのベースは崩さないように進んできました。とはいえ、ロシアのダンサー――ヌレエフなどもそうですが――が亡命したのは、クラシックばかりでバランシンなどの振付家の作品を踊りたいというのもあったと思います。色々な作品を入れてダンサーを刺激するようにしてきました。世界的に通用している振付家の方を招聘し、その作品に参加することを通して何かが目覚めるのではないかなと。そこに僕の振付も入れてやってきました。

それが就任の前年(1993年)に始まった三谷先生のプロデュースによる「ダンス・ヴァンティアン」(2007年まで11回開催)ですね。
自分と同年代の方を中心にバレエだけでなくモダンダンスやフラメンコの方を含め日本人の振付家の方にも作品を創ってもらいました。でも、そう沢山はいませんので限られてきてしまう。また、外の方に振付をお願いすると、出演者を選ぶ際にはやはり、いいダンサーから順に選びます。振付家の方にも色々な作品を創っていただきたいし、ダンサーにも多く舞台に立ってもらうことが必要ですから、その両方のバランスを考えながらやってきました。

「ダンス・ヴァンティアン」では20世紀を代表する振付家ローラン・プティさんの作品を上演するようになります。プティさんとの出会いはどのように?
昔パリの稽古場で両手に白い手袋をはめてレッスンしている人がいて誰だ!?と思っていたらプティさんでした。それからずいぶん経ってアザーリ・M・プリセツキーさんがバレエ団にいらしている時に、ちょうどプティさんも来日されていました。プリセツキーさんはプティさんのカンパニーにいたことがあるので一緒に会いに行きました。その頃“小ベンツ”と呼んでいた小さなベンツに乗っていて、ベンツを大好きだったプティさんをバレエ団に送迎しました。レッスンとリハーサルをずっとご覧になりました。何か作品をいただきたいとお願いすると『アルルの女』の上演許可をくださいました。その後『ノートル・ダム・ド・パリ』のような大作も上演できるようになり、交渉のためにマルセイユに伺ったりもしましたが、私のことを最初は運転手だと思われていたかもしれません(笑)。亡くなられた際(2011年)は葬儀に出席しました。思い出はたくさんあります。奥様のジジ・ジャンメールさんとジュネーブのアパートに行って3人で食事を共にしたりもしました。芸術的に妥協がなく作品に自分の子供のような愛情をお持ちなのが、ひしひしと分かる方でした。

「ノートルダム・ド・パリ」 撮影:鹿摩隆司
「ノートルダム・ド・パリ」 撮影:鹿摩隆司

プティ作品を踊ることによってバレエ団・ダンサーが受けた影響は?
プティさんはレッスンをご覧になり気に入ればコール・ド・バレエであろうと起用します。誰も何も言えません。「俺は何か匂うんだ」といつもおっしゃっていました。ただリハーサルは厳しく『若者と死』で若者を踊った正木亮羽は「やれないならパリ・オペラ座のダンサーに替える!」と言われた。しかし、亮羽は乗り越えてやってくれました。彼から生まれた何かをプティさんが見つけてくれたんだと思います。草刈民代にも『アドリブ・オン・ニッポン』(『デューク・エリントン・バレエ』の1パートとして上演)などで「あの美しさはなかなかない!」と言って振り付けてくださいました。プティさんの作品は独特な香りがする。パリのエスプリがあり皮肉っぽいところもあるんだけれど面白いんですね。

世界的に人気の高いナチョ・ドゥアトさんをいち早く招待しました。1998年に取り上げた『カミング・トゥギャザー』は日本のバレエ団として初めてのドゥアト作品上演です。
マルセイユのプティさんの所に行った時、ある女性のダンサーに「若手で優秀で人気が出てきた振付家はいないか?」と尋ねました。プティさんに聞くと「俺が一番だ!」と怒られますから(笑)。するとスペインで活躍しているドゥアトさんの名が挙がりコンタクトを取りました。皆ダンサー同士ですから。私もダンサーでしたしドゥアトさんも、それにプティさんも元ダンサーです。お互い分かりあえる。自然に分かるんですね。

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ご自身の創作についてお伺いします。マルティヌー「交響曲第6番」を使った『ぺルソナ』(1993年初演)は実存的というか重層的な心理が万華鏡のように伝わってきて印象的です。いっぽう『ガーシュウィンズ・ドリーム』(1997年初演)、『ヴァリエーションfor 4』(2000年初演)のような洒落た作品もあります。創作のプロセスを教えてくさい。
『ぺルソナ』は小嶋直也や根岸正信が同じ世代で出てきて、それぞれ個性があるし「これは何かできるな」と思いました。音楽をどうしようかと思っていた時、亡くなられた島田廣先生にご相談すると、マルティヌーを勧められレコードを貸していただきました。島田先生は何でもよくご存じで、お酒を飲みながらいっぱいお話しさせていただきました。『ヴァリエーションfor 4』は、ぴったりな男の子に出くわしたので福田一雄先生にご相談するとテープが送られてきました(ウォルトンの「ファザード組曲」)。音楽をたくさん聴いて勉強はするのですけれども、それだけでは十分ではないから先生方のお力をお借りしました。振り付ける際はダンサーを生かしながら自分を発信しているつもりです。そうじゃないと自分の作品だというオリジナリティがなくなって、ただのステップに終わってしまいます。

「ペルソナ」1993年(初演)撮影:山廣康夫
「ペルソナ」1993年(初演)撮影:山廣康夫

1997年に新国立劇場が開場し、前後して新興のカンパニーが相次いで立ち上がるなど日本のバレエ界の状況は年々大きく変わってきました。そんな中、わが国有数の伝統があり規模も大きなバレエ団のかじ取りを行う上で注意を払い、打ち出されてきたことは?
元々バレエを好きなダンサーが集っています。そういう人たちに「バレエ団が持っているレパートリーはこういうものなんだ」と理解してもらい皆で一緒になって創りあげていく。その良さを分かる人が残っている。先日上演した『眠れる森の美女』もそうですが時代考証やデザインを全てきっちり創っています。それを現代の人が踊るので、多少踊り方は違いますけれど、創られた当時のことや、なぜこういう踊りをしているのかを分かっていると深く入りこんでくれる。そこを大事にダンサーと価値を共有ながらまとめています。
古典作品を繰り返し上演していると「古い」「伝統ばかり守って」とよく言われますが、クラシック・バレエの伝統とは、そういうことではなくて踊る方の精神的なことを言うのだと思います。『白鳥の湖』にしても色々なポーズがありますが形だけやっても意味がない。パ・ド・ブレの出し方とかでも守らないといけないことがあり細かく指導します。女の子が一番上手くなるのは『白鳥の湖』のコール・ド・バレエなんですよ。子供を産んだダンサーが「『白鳥の湖』の第2幕を我慢できたら出産時の痛みなんて簡単」と言います。それくらい静止したまま爪先立ちで立つのは辛い。古典は甘くありません。

「眠れる森の美女」 撮影:鹿摩隆司
「眠れる森の美女」 撮影:鹿摩隆司

「白鳥の湖」 撮影:鹿摩隆司
「白鳥の湖」 撮影:鹿摩隆司

古典全幕を改訂される機会も増えました。『ジゼル』では主人公アルブレヒトの恋敵で村人からも疎まれているヒラリオンに友人がいる設定です。『くるみ割り人形』ではドロッセルマイヤーに甥がいて毎年新鋭が配役されます。改訂の際に意識されていることとは?
ジャック・カーターさんの『くるみ割り人形』もテリー・ウエストモーランド先生の全幕ものも初演に出ていますし『ジゼル』もそうでした。『ジゼル』ではアルブレヒトを踊りましたがヒラリオンはさも悪者でしょう?こっちも女をだまして遊んじゃっていて悪いんだけれども(笑)。ヒラリオンにもう少し優しさがあってもいいなと思っていました。踊っていた時に感じたことを反映してみようと。『くるみ割り人形』を新しくする時に亡くなられた高円宮憲仁親王殿下にご相談しました。あまり基本を外さずきちんとした時代考証をしたものを創りたいと申し上げると英国系が良いとおっしゃられました。ちょうどその時期に観た新国立劇場バレエ団『シンデレラ』(アシュトン版)のデザイナーの感覚が生かせればいいなと思いロンドンへ向かいました。装置も衣裳もイギリスで作りました。演出については全く新しいものに足を踏みこむのではなく解釈の違うところを少しずつ入れて変えています。

「くるみ割り人形」 撮影:鹿摩隆司
「くるみ割り人形」 撮影:鹿摩隆司

リハーサルでご指導される際に大切にされていることとは?
脚の使い方は毎日の練習とそんなに変わりませんが手の使い方が作品によって違うのでアームスの使い方は注意します。それと日本人は踊りも真面目なので真面目さから解き放たれてほしいと思う。主役にはその人の持ち味や個性は変えてほしくないですね。自分の色でも香りでも出せる範囲でやってほしい。ボディが柔らかい感じのダンサーだと貴族の雰囲気を出すには「貴族が普段生活しているように衣裳が体にあっていないといけないよ」と着方を直し中身を直してもらいます。逆にボディが固いダンサーには「柔らかい雰囲気を出してもいいよ」と。谷桃子先生の引退公演で『ジゼル』を踊った時、外国人の先生にご指導いただいたのですが、最初に出てくる所で脚を出しただけで「違う」と。そこだけで3時間くらいかかり汗びっしょりになりました。そういう経験は伝えていきたいと思います。

国内外のコンクールの審査員を数多く務められるなど若い世代のダンサーに接する機会も多いかと思います。彼らから感じること・伝えたいことをお話し願えますか。
コンクールの審査をしているとジュニアなのに上手な子は出来あがっちゃっている。直しようがないし、直せないんですよ。直すとおそらく不安で踊れなくなる。先日あるコンクールの総評でも話しましたが、15、16歳くらいで出来あがって後は何をやるのですか?と。スカラシップをもらって海外に行くじゃないですか?でも、その時点で凄く踊れるから何を勉強するの?と思います。プロのカンパニーに入って作品を踊り自分の芸の肥やしにした方がいい。もちろん粗削りだけれどもバランスが良くて、脚の甲もあって、顔も小さくて、そこそこ回れるという子がスカラシップもらって勉強するのは価値があります。運動神経のいい子とか沢山いたりして感心しますが大人のプロのダンサーのような踊り方をする。もっと新鮮で粗削りなエネルギーがあってもいい。のびのびと踊ってほしいですね。

2015年5月30‐31日に行う「Unforgettable Evening」を皮切りに60周年記念公演シリーズが始まります。全体のコンセプトやラインアップについてお話しください。
「バレエ団の個性は何か」と振り返り伝統を見直しながら新しい試みも入れていきたいと思います。「Unforgettable Evening」ではクラシック・バレエ『ライモンダ』第3幕、フュージョンとしてヴォーカル・グループLE VELVETS(ル ヴェルヴェッツ)とのコラボレーション、モダンのピーター・ブロイヤー振付『ボレロ』を上演します。LE VELVETSさんは背の高い音大出の男性5人のグループです。彼らの歌を聴きに来られる方もいらっしゃると思いますが時々主役が交代するくらいに持っていけるような振付をやりたいです。オペラの曲もあり、ふざけたことはできませんが、動きに遊びを入れてみたい。『ボレロ』は現代的なコンテンポラリーです。動きが激しく人間の肉体の無限の可能性や音楽との絡みあいをどう表現していくかが見どころです。6月の『リーズの結婚~ラ・フィーユ・マル・ガルデ~』(アシュトン振付)はロイヤル・バレエが来ると上演されることはありますが他の日本のバレエ団ではやらないレパートリーです。プティさんの『ノートル・ダム・ド・パリ』も上演します。2016年夏には60周年記念公演のメインとして『飛鳥物語』(音楽:片岡良和、台本:橘秋子、演出・振付改訂:牧阿佐美)を創り直します。日本人が作曲し台本を書いた作品を、振付も創り直して海外に持っていけるようにしたい。牧が私にも手伝ってほしいといっていますが長かったものを2幕ものにしようと考えています。

「ライモンダ」 2008年 撮影:鹿摩隆司
「ライモンダ」 2008年 撮影:鹿摩隆司

「リーズの結婚」 撮影:鹿摩隆司
「リーズの結婚」 撮影:鹿摩隆司

今後の展望をお伺いします。60周年はもちろん、さらに先を見据えての取り組み、昨年結成された一般社団法人日本バレエ団連盟の常務理事としての抱負等お聞かせください。
牧阿佐美バレヱ団には系列の橘バレヱ学校出身者だけでなく外からの人が増えています。プティさんが若手を抜擢したのと同じように刺激をあたえたい。一貫教育だけで上がってくると先輩・後輩の縦の関係になってします。その垣根は壊し良いダンサーは抜擢し経験を積ませなければならない。そのためにもバレエミストレス、バレエマスターを育てていかなければなりません。先生方にはもっと勉強してほしい。人から何かを引き出すためには止まっちゃってはいけないんですね。「昔の名前で出ています」ではなくて。ジェネレーションが変わってきています。私も勉強していかなければいけません。教師陣・スタッフの底上げ・レベルアップは常にやっていきます。日本バレエ団連盟に加入しているバレエ団は皆個性が違います。一緒に話し合いを進め、全体の意見をまとめ「東京オリンピックの文化プログラムに参加できますよ」といったことを団体として提案していきたいと思います。

 

★ ☆ ★ 公 演 情 報 ★ ☆ ★

Unforgettable Evening
Ballet {Classic&Modern} & Opera with Ballet
第1部 「ライモンダ」第3幕
演出・改訂振付:三谷恭三(振付:マリウス・プティパ)
音楽:アレクサンドル・グラズノフ
第2部 LE VELVETS + 牧阿佐美バレヱ団
「月光」「You raise me up 」「Nessun Dorma」他
第3部 「ボレロ」
振付:ピーター・ブロイヤー
音楽:モーリス・ラヴェル
2015年
5月30日(土)18:00
5月31日(日)15:00
会場:文京シビックホール 大ホール

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リーズの結婚~ラ・フィーユ・マル・ガルデ~(全幕)
La Fille mal gardée
2015年
6月13日(土)17:00(開場16:15)
6月14日(日)15:00(開場14:15)
上演時間:約2時間(休憩1回含む)
会場:ゆうぽうとホール (五反田)

公演情報の詳細は牧阿佐美バレヱ団ホームページをご確認下さい。
http://www.ambt.jp/