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オペラ『水炎伝説』の演出・振付・美術
中村恩恵インタビュー

2015年新春、神奈川県民ホールで開幕を迎える開館40周年記念公演『水炎伝説』。2005年に発表された一柳慧作曲による混声合唱とピアノのための舞台作品を管弦楽版に編曲し、オペラ『水炎伝説』として改訂初演を果たします。演出・振付・美術を手掛けるのは、横浜出身であり神奈川県民ホールとも縁の深い中村恩恵さん。本作で自身初のオペラ演出に挑戦する中村さんに、作品への想いをお聞きしました。

聞き手・文:小野寺悦子  インタビュー写真撮影:石川 陽

 

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中村さんにとって初のオペラ演出となる本作。オファーがあった時の心境はいかがでしたか?
ヨーロッパには大小さまざまなオペラ座がありますが、どこも基本的にオペラが主体で、舞踊はそこに従属する形になっているのが実情です。私も10代の頃にオペラ作品で踊ったことがあるけれど、オペラの中のダンスというのはちょっとした娯楽要素として挿入されることが多く、舞踊を本格的に志す者にとっては少し悔しさを感じたことも……。ただ今回の作品はオペラといってもクラシカルなものではなく、一柳先生の作曲による現代オペラになっている。現代オペラには私も以前から興味があったので、これは新しいチャレンジになるのではと思いワクワクしました。

創作にあたり、一柳さんとはどのようなお話をされたのでしょう?
最初に一柳先生とお会いしたとき、日本語の美しさについてお話されていたのがとても印象に残っています。そもそもオペラの様式というのは西洋のものであり、作品も外国語で書かれているものが大半ですよね。けれど、一柳先生はこの国ならではの美しさをとても大切にされていて、楽曲にもそれが込められている。
先生はとても大らかで、自由にやっていいんですよ、と言ってくださいます。こうでなければいけないということはなく、信頼して、任せてくださる。もちろん楽曲自体非常に明確につくられていますので、それぞれのシーンや間奏を読み取っていると、曲が立体的に生きているのを感じます。またそれを具体的な表現に置き換える作業をしていると、私の中でも何かしら見えてくるような感覚がありますね。

今回は首藤康之さんが演出・振付補で参加しています。
首藤さんとは、新国立劇場で上演した『ソネット』や『小さな家』でも一緒に演出を手掛けたことがあります。私は物事を平面的に捉える傾向があるけれど、首藤さんは立体的に捉えることができるので、足りない部分を補ってくれる。あとオペラ演出助手の喜田健司さんも加わり、三人で意見を出し合いながら進めています。喜田さんは私たち舞踊の人間とは違う観点を持っていて、こういうやり方があるんだと気付かされることも多く、すごくいいチームになっているのを感じます。

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ダンサーは、渡辺レイ、後藤和雄、武石光嗣の三名が出演します。彼らをキャストに決めた理由とは?
今回はホール自体が小さく、お客さまが近距離にいる。舞台の大きさと音楽との関係性を考えると、細やかな表現、自由な表現ができ、かつしっかりとした基礎を持つ踊り手が望ましい。艶やかな踊りをイメージできる人、雄弁でありながら静かな身体を使える人材をと考え、今回のキャストに決めました。

歌い手とはどのような作業をされていますか?
歌い手の方とは、毎回リハーサルの始めに15分程度身体的な作業を行うようにしていています。身体に対する認識を彼らに伝え、私も一緒に動くことで、こう捉えるんだと学ぶことも多い。そこでの経験が、演出する上でとても役立っているのを感じます。あと驚きだったのが、「私たちは鏡で自分の姿をチェックしないんですよ」と言われたこと。我々踊り手は常に鏡を見て、自分の姿を確認する習慣が刷り込まれています。でも歌い手の方々は、リハーサルが始まるとスタジオの鏡をさっと閉めてしまう。踊り手との違いを実感したし、一緒にやっているといろいろ発見があって面白いですね。

歌い手とダンサーの役割、両者の関係性はどのようなものになるのでしょう。
歌い手にはそれぞれ役柄があり、場面に合わせて立ち位置や仕草を付けています。あらすじに沿ってはいますが、どの程度芝居で表現するか、さじ加減が難しいところ。どこまで具体的に物語を伝え、そこにテーマ性を持たせるか、というのが今回のチャレンジでもあって……。作品のテーマにあるのが、死や再生、一瞬の美しさといった、とても抽象的なもの。その役割を担う意味でも、ダンサーはより抽象的な表現であり存在になっています。
舞踊でのみあらわせるものと人の声でのみあらわせるもの、それぞれが対等にぶつかり合い、シンガーとダンサーの持つ最大の力量がきちんと対峙し合う作品にしたい。そのためにも、聴覚に集中して訴える場面から、視覚に訴える情報にぱっと切り替えたりと、双方に時差を付け棲み分けを行うようにしています。歌手だけを見てもひとつの完成度があり、踊り手だけでもそれなりの説得力がある。そして両者が一緒になると、また違う異化が起こる。異なるふたつのプラットフォームが合わさることで、新たなものが見えてくる。これは作品として非常に効果的だし、私も見ていてとても楽しいです。

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空間演出、美術はどのようなものを考えていますか?
今回の公演は神奈川県民ホールの40周年記念企画であり、横浜市民の私にとっては沢山のものを観たり聴いたり触れてきた、とても大切な劇場でもあります。そういう意味でも、この劇場でこの作品を観る意義を伝えたい。劇場そのものの姿を見て欲しい、という想いがあります。ですからあまり作り込みすぎず、劇場の持つ質感や色合い、可能性を効果的に反映していくつもりです。会場自体は白一色の空間ですが、私の中では暗闇の世界をイメージしていて。どのような工夫で何を落とし込めば双方が生きてくるか、本番に向け模索しているところです。

神奈川県民ホールでの思い出、印象に残っている舞台などありましたらお聞かせください。
今でも忘れられないのが、高校生の時に観たシュツットガルト・バレエ団の来日公演。三階席でオペラグラスも持たずに観てたのに、まるで目の前で観たような衝撃があって。きっと、ものすごく集中していたんだと思います。ダンサーの瞳の動き、小道具を触る手の仕草など、細かい所まではっきり見えたのを覚えています。でも大人になり、特に舞台に関わるようになってからは、何を観てもつい分析してしまう。純粋に舞台を観て、「ワーッ!」と感動するような体験がなかなか持てなくなっているのを感じます。でもきっとお客さまは、10代の頃の自分と同じように、新鮮な感覚で観ているはず。その想いは今も、私の観劇の原点になっています。
ヨーロッパに行くことになったのも、県民ホールがきっかけでした。パリのジュヌ・バレエ・ド・フランスというジュニアカンパニーの来日公演で観たヌーベルダンスがすごく刺激的で、彼らのレッスンに飛び入りで参加させてもらったんです。ところがある日メンバーが怪我をして、彼女が踊るはずだったグラン・フェッテができるダンサーがいなくなってしまった。代わりにツアーの続きに参加してくれないかと言われ、一緒に大阪や四国、九州と各地を回り、そのままパリに行きました(笑)。

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神奈川県民ホール開館40周年記念公演として上演されるオペラ『水炎伝説』。この作品を通して表現したいもの、伝えたいものとは?
今回音楽稽古に立ち会わせていただいたのですが、これは私にとって生まれて初めての経験であり、衝撃的な体験でした。歌手の方々が間近で歌うのを聴いてたら、人の声、歌の力強さに、雷に打たれたような感動を覚えて。何かを他者に伝えたいと思う強さを感じたというか、内臓にウワーッと響いてきて、本当に身体が割れるような感覚を覚えたんです。生身の人間が、目の前で、自分たちのために表現をしてる。とてもシンプルだけど、その臨場感はとてつもないものがある。今の時代は、YouTubeもあり簡単に音楽や舞踊に触れられるから、実際には観ていなくても、よく知ってるような感覚になりがちですよね。でも実は自分に都合のいい所だけ、見たい所だけ見ているだけという気がします。
生身の人間が、同じ空間で、同じ時を生きてることを共有できる。一瞬の出来事ではあるけれど、その一瞬を観た瞬間を一生覚えているような、長い一瞬にもなり得るでしょう。それはきっと命の大切さ、存在といった作品のテーマとも重なっている。一瞬の重み、そして永遠に繋がる一瞬が存在することを、この舞台を通して感じていただけたらと思っています。

 

★☆★ 公演情報 ★☆★

神奈川県民ホール開館40周年記念
オペラ「水炎伝説」1幕3場<改訂版初演>

公演日時:2015年01月17日(土)~2015年01月18日(日) 開演:15:00(14:30開場)

場所:神奈川県民ホール 小ホール

料金: 全席指定 6,000円
学生(24歳以下) 4,000円<限定数あり>
※未就学児入場不可
※予定上演時間約60分(休憩なし)

主催:神奈川県民ホール

お問い合わせ:神奈川県民ホール 事業制作第一課  045-633-3686

公演詳細はコチラ http://www.kanagawa-kenminhall.com/detail?id=33050

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