【PICKUPについて】

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PICK UP!

NYCB現地取材記事

ニューヨークには舞台芸術の中心地がふたつある。ミュージカルの中心はブロードウェイ。ブロードウェイというのは、マンハッタン島を縦断する長い道路だが、ふつうブロードウェイというと、42丁目のタイムズ・スクエアから45丁目あたりまでのシアター・ディストリクト(劇場地区)を指す。

いっぽう、クラシック音楽、オペラ、バレエのファンが集まるのは、セントラル・パークの南西端にあるリンカーン・センターだ。ABT(アメリカン・バレエ・シアター)と並んでアメリカを代表するバレエ団、NYCB(ニューヨーク・シティ・バレエ)の本拠地であるデイヴィッド・H・コック劇場(以前はニューヨーク・ステート劇場)もここにある。

シーズンは年4回だが、春はとくに賑やかだ。隣のメトロポリタン歌劇場でABTも公演していて、「バレエの競演」が繰り広げられるからだ。夕方になると、リンカーン・センターの中心にある広場(その真ん中には有名な噴水がある)を人びとが埋め尽くし、ふたつの劇場に吸い込まれていく。

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(c)瀬戸 秀美

ABTは毎年数作品だけ上演する。1週間に1演目ずつ上演するので、短期間しか滞在しない旅行者は、ひとつか、せいぜい2作品しか見られない。それに対し、ものすごく演目数が多いのがNYCBの特色である。毎日プログラムが変わる。何しろ今年のキャッチコピーは<3週間で33作品>である。5月に訪れたとき、4人のダンサーにインタビューすることができたが、全員に同じ質問をしてみた。
「このバレエ団はシーズンごとにたくさんの演目を上演するけど、30も40ものバレエを覚えるって大変じゃない?」
4人とも答えは同じだった。子どもの頃からずっと踊っているので、振りを覚えることはいちばん簡単なのだそうだ。一度も苦労したことはないという。さすがプロ。

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(c)瀬戸 秀美

NYCBは今年で創立65年を迎える。子どもたちのための『くるみ割り人形』は別として、レパートリーのほとんどは、創立者であるジョージ・バランシンと、彼の盟友だったジェローム・ロビンズの作品である。ABTのお客さんは、観光客とNY在住のロシア人が多いことが特徴だ。それに対してNYCBの観客のほとんどは、全員に質問したわけではないけれど、いかにも「ニューヨークっ子」という顔をしている。みんなが「私が育てたバレエ団だ」と言わんばかりの顔をしている。
バランシンの作品は、それまでのバレエとどこが違うのだろうか。いわゆる古典バレエにはかならずストーリーがあるが、バランシンはそれを排除し、バレエを「目で見る音楽」へと変えた。美術の世界では20世紀に抽象画が生まれたが、それと同じ革命をバレエの世界で起こしたのがバランシンなのだ。

来日公演の演目のいくつかを、一足先にNYで観た。

『セレナーデ』はバランシンが、アメリカで最初に(学校の生徒たちのために)振り付けた作品だが、彼の最高傑作だと断言する批評家もいる。以前テレビ・コマーシャルにも使われていた、誰もが知っている有名なチャイコフスキーの曲に合わせて、青白い月光の下で踊るダンサーたちが繰り広げる、束の間の幻覚のような情景。途中、ひとりのダンサーが転ぶシーンがあるが、これは生徒が転んだのを見て、バランシンがそれを振付に取り入れたのだった。

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(C)Paul Kolnik

ロビンズの『ウェスト・サイド・ストーリー組曲』は日本でも超人気演目だが、本場ニューヨークでも、幕が下りるとかならずスタンディング・オーベーションになる。ロビンズは『ウェスト・サイド・ストーリー』の振付家であるだけでなく、原作者でもあり、映画版の共同監督でもある。バレエ・ダンサーが踊るとどうなるか、それをミュージカル・ファンにもぜひ見ていただきたい。

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(C)Paul Kolnik

超絶技巧を披露する小品として有名な『タランテラ』を踊ったのは、エリカ・ペレーラとダニエル・ウルブリック。超テクニシャンとして知られるウルブリックは、勢い余ってタンバリンを壊してしまい、場内大爆笑。

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(C)Paul Kolnik

他の演目も紹介しておこう。
バランシン版『白鳥の湖』は湖畔のシーンだけの短縮版。白鳥たちの黒い衣裳が印象的だ。バランシンの生前はつねに純白の衣裳で踊られていたが、バランシンは死の直前に大量の黒い布を買い入れたのだった。

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(C)Paul Kolnik

『シンフォニー・イン・スリー・ムーヴメンツ』と『フォー・テンペラメント』はそれぞれ20世紀音楽の巨匠、ストラヴィンスキーとヒンデミットの曲による。両者のスタイルの違いが、振付の違いにも反映している。とくに前者の最後のシーンでは、マンハッタンに屹立する摩天楼群が見えてくるようだ。
『シンフォニー・イン・C』は、今春は奇しくもアメリカン・バレエ・シアターがこの作品を上演した(私も観た)。バランシンの作品には、女性がチュチュを着て踊るバレエと、レオタードを着て踊るバレエがあるが、これは前者の代表。一見するとクラシック・バレエのように見える作品で(ただしストーリーはない)、50人以上のダンサー
が舞台を埋め尽くすフィナーレは壮観だ。NYCBの看板演目(英語では「シグニチャー・ピース」という)だが、昨年、スワロフスキー製の新しい衣裳が登場し、話題を呼んだ。

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(C)Paul Kolnik

 

4人の若いダンサーたちへのインタビューの、ほんのさわりをご紹介しておこう。

 

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(c)瀬戸 秀美
サラ・マーンズはサウス・カロライナ出身。3歳でバレエを始めたが、10年後に先生が亡くなり、隣の州にあったパトリシア・マクブライドとジャン=ピエール・ボヌフー夫妻のバレエ教室に通った。お母さんが毎日往復3時間かけて車で送り迎えしてくれたという。
ちなみにマクブライドとボヌフーは往年のNYCBの名ダンサーで、その後学校を開き、NYCBに大勢の教え子を送り込んでいる。サラにとっての憧れのバレリーナはナタリア・マカロワだそうだ。いちばんのお気に入りのバレエは『セレナーデ』。『白鳥の湖』は今秋初めて踊るので、ちょっと緊張しているそうな。日本では、渋谷駅前のスクランブル交差点で信号が変わったときに四方から歩いてくるものすごい群衆に圧倒されたそうだ。スニーカーをたくさん買い込んだとか。

 

Daniel Ulbricht_s
(c)瀬戸 秀美
ダニエル・ウルブリックは超絶技巧で知られる。11歳のときにダンスを始めたが、最初はバレエではなくタップとジャズを習い、器械体操や武術も習った。
最初に出会ったバレエの先生は、飛んだり跳ねたりするアクロバティックな技ばかり教えてくれたので、すっかり気に入ってしまった。後になって気づいたけど、それが先生の作戦だったんだね。あるとき友人から、おまえはマグロだと言われた。最初は侮辱されたのかと思ったが、その友だちの説明を聞いて意味が分かった。マグロは一生泳ぎ続けて、一瞬たりとも止まることがない。たしかに僕はじっとしていない。
尊敬しているのは、ミハイル・バリシニコフ、ジーン・ケリー、そして熊川哲也。4年前の日本では「はじけた」。
日本語もずいぶん覚えたけど、いまでも覚えているのは「腰が痛いんです」だけ。

 

Rebecca Krohn_s
(c)瀬戸 秀美
レベッカ・クローンはニューヨーク州出身。4歳のときに『くるみ割り人形』を観て、頭の中で何かがカチッといった。最初はクラシック・バレエに憧れたけど、NYCBの写真集をみて、なんて美しいんだろうと思い、NYCBに惚れ込んだ。マクブライドとボヌフーの夏期講習に参加して、スクール・オブ・アメリカン・バレエへの入学を勧められた。
憧れはウェンディ・ウィーラン(NYCBのトップ・ダンサーのひとり)。前回の日本公演でいちばん印象的だったのは、築地市場でみたマグロの解体ショー。朝からスシを食べたりして、楽しかった。今年は電車に乗ってあちこち行きたいけど、そんな時間はないようね。

 

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(c)瀬戸 秀美
ジャスティン・ペックはカリフォルニア出身。バレエを始めたのはかなり遅く、13歳のとき。それまでは
演劇に興味があったんだけど、サンディエゴでABTの公演を観て、バレエダンサーになろうと思った。
最初はクラシックしか知らなかったが、NYに来て、毎晩のようにNYCBを観て、すっかりバランシンの
虜になった。ダンサーとして踊り続けるかたわら、2009年から振付を始め、すでにNYCBのために3作品
振り付けた。今春もひとつ初演した。若手振付家として、いま最も期待されている。

 

取材・記事 : 鈴木 晶

 

【公演情報】
ニューヨーク・シティ・バレエ 2013
20世紀最大の振付家ジョージ・バランシンが世界最高峰のバレエ団に育て上げたニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)が、総勢140名で4年ぶりに来日!
日本初演となるバランシン版「白鳥の湖」、純粋美の金字塔ともいえる「セレナーデ」をはじめとするバランシン6作品と、ミュージカル界でも名高いジェローム・ロビンズの最高傑作「ウエスト・サイド・ストーリー組曲」を上演する。『これぞNYCB』という作品揃いの2プログラムはどちらも見逃せない!

NYCBばな④

<日程>
2013年10月21日~23日
Bunkamuraオーチャードホール

2013年10月26日~27日
フェスティバルホール

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